外構デザインは建物にどんな洋服を着せるかを考える作業です。ひとつの基本は建物と同一素材で構成するということですが、それだけではなく、建物のデザインコンセプトと歩調を合わせた設計が必要です。できれば建築設計の段階から、あれこれと試着する感覚で検討を重ねることをおすすめします。この分野、数年前から比べると格段にセンスアップされてきましたが、いまだに建物とまったく合わない、チグハグな外構はつくり続けられていて、それらを目にするたび、同業者として、もどかしさや残念な感じを持ってしまいます。
 今日は、せっかくの、一世一代の買い物である新築住宅に、変な服を着せないためのひとつのポイント、外構の素材選びをご伝授します。
 外構資材の主なものとしては、化粧ブロックやインターロッキングといったコンクリート製品、タイル、レンガ、鋳物、金属、プラスチック、樹脂製品、石材、木材、植物などがあります。そしてこれらは、時間と共に劣化してゆくものと、風合いを増してゆくものとに分けられます。例えばアルミフェンスや化粧ブロックは施工時がベストな質感で、5年10年と経つうちに、時間が経過した分劣化した感じになります。対して石やレンガや木材などは、日に焼け、苔むし、たとえすり減ったりゆがんだりしてきても、良い味がでてきた、風合いが増してきたという印象になるものです。構成物の目的や機能にもよりますが、家族と共に成長して味わいを深めたり、風合いを増してゆく素材選び、古美る(フルビル)素材での構成をおすすめします。
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 例えばレンガ。お客様にレンガをおすすめするときにいつも思い出す場所があります。吉祥寺の古いジャズ喫茶です。その店は地下にあり、路地から狭いレンガの階段を降りてゆくのですが、その階段のレンガがすり減って、角が丸まってツルツルになり、実に歩きづらいのです。でもそこを注意しながら歩くたびに、店の歴史、地下から上がってくるコーヒーの香りと一緒に70年安保の空気が感じられるのです。同じことを感じてここに通う常連さんは多いはずです。ひとつの素材の風合い、すり減ったレンガの歩きづらさが、熱かった時代の空気感、論争、フォーク集会でがなった後の陶酔感や、ヘルメットからつたった汗の感じ、催涙ガスの目の痛み、そしてその後の時代的挫折感までを一気にフラッシュバックさせる、すごいことだと思いませんか(なんちゃって、当時私は10歳だったんでそんな実体験はないのですが、その世代の人たちに強くあこがれ、将来は体制と戦い、俺達の時代的革命を起こすのだと本気で考えている少年でした。その癖は末っ子のコオに受け継がれています。彼は大人になったら大きな悪と戦うべく日々ヒーローに変身する訓練を欠かしません)。
 家は家族の歴史が刻まれてゆく場所であり、子どもたちにとっては人生の土台となる、かけがえのないすばらしい思い出が蓄積されてゆくべき場所です。劣化してゆく素材は極力避け、家族の成長と共に風合いを増してゆく『古美る』素材で構成してみて下さい。
 もう一点、素材選びで重要なのは建物との統一感です。玄関・玄関ポーチと道路までのアプローチを同じもので、家の外壁と門塀や土留めを同じ仕上げで構成するという手法は、条件が可能ならぜひ取り入れていただきたい基本テクニックです。それが無理な場合でも、できるだけ素材数を少なくすることをおすすめします。素材やデザインがシンプルなほど、美しく、印象がグレードアップするものです。まるで建材屋さんのサンプルガーデンのように、何種類ものレンガやブロックを使うのは、デザイン的にはとても難しく、あまり成功例を見たことがありません。
 古美る素材でシンプルに、建物との調和を考えて、洋服を試着する感覚で素材選びをおこなってみて下さい、きっとうまくいきますよ。

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