イベントの設営や展示会に駆け回りながら、設計も(遅れ気味ながら)こなしています。しかもいい感じで。“忙しい人ほど本を読む”に似て、忙しい時ほど設計がはかどるのです。全身の感覚が活性化するのでしょう。
 設計がはかどるといっても、それはジグソーパズルや経理の伝票整理みたいに正解や終了が確実に準備されているという作業ではありません。白いキャンバスに絵を描くのに似ています。誰もどういう絵を描くのが正解だとは言ってくれません.自分が描きたいように、納得いくまで筆を走らせるのみです。そんな感じで出口の見えない設計作業に没頭しているとある時点で急に完成が訪れるのです。その時の感動(大げさではなくてジーンとくるのです)はこういう仕事をしていることで得られる特権です。与えられたマニュアルに従って仕上げて行く作業・仕事では絶対に味わえない感覚なのです。この“突然やってくる完成”という感じを最初に味わったのは中学生の時でした。今日は最近その感じを味わった設計三点をご覧いただきながら、その話を。

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 中学校入学と同時に腎臓病になってしまい、医者から一年間の運動禁止命令。当時、今で言うバレーボールみたいにちょっとしたブームだった卓球部に入りたかったのですが、やむなく美術部に入部しました。これが私の人生を方向付けた気がします。もともと絵は大好きでしたが、さほどの評価を得たことはなくて、ただ絵を描いていると退屈しないからいつもひたすら広告の裏や教科書に落書きをしている、そういう感じでした。それが運動部に入れずにやむなく入った美術部だったので、今思うとまるでスポーツするみたいなエネルギーで、筋力トレーニングをするように美術にのめり込んでいった気がします。
 来る日も来る日も頭の中は“美術”のことのみ。飽きることなくデッサンを繰り返し、粘土をこねくりまわし、美術史や、全く意味が分からない美術書の解説文を暗記し、印象派や浪漫派の作品を模写する、そんな毎日。今考えると表現欲過多の私には至福の時間だった気がします。そして夏休みに初めて油絵に挑戦! 描きたい物はすでに決まっていました。魚野川の河原の土手にある林、桜の木が十数本生えている場所があって、その中に入るとセミがおそらく100匹くらい一斉に鳴くというお気に入りの場所。その土砂降りのように降る蝉時雨を絵にしようと考えていたのです。おぉ! 何とロマンチックな少年だったことか。蝉時雨を描きたいなんて今の私には思い付きません。それでイーゼルを立てて現地で何枚もスケッチし、さらに水彩で構想を描いて、本番の油絵はアトリエ(四畳半の自分の部屋を無理矢理そう呼んでいました)で。その時の部屋にこもったオイルの匂いは、今思い出してもウットリする幸せな香り、昆虫専門店に入った時の木屑の匂いとともに、私の一生の宝物です。

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 描き始めたらもう止まりません。夏休みなので寝なくてもいいし、エンドレスで絵に没頭です。腹が減ったらぺヤングヌードル(ぺヤングソース焼そばではなくて、しょうゆ味の普通のカップラーメンです。新潟では今でもスーパーで売っていて、その時の記憶のせいか今でも大好物で、帰郷すると必ず食べてます)、2日間ほとんど寝ないで描き続けました。そして意識もうろうの中、終わりは突然やってきました。キャンバスいっぱいに何度も塗り重ねた桜の林から一匹のセミが鳴き始めたのです。キターッ!! 心臓ドキドキしながらさらに筆が走ります。そうするとつられるように次々鳴き出して、やがて現地と同じ、絵の中から滝のような蝉時雨が聞こえてきたのです。岩渕少年は四畳半のアトリエで、イーゼルの前に棒立ちして泣いていました。そして感動と達成感に包まれながら筆を置いたのです。

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 これが我が人生最初の“突然やってくる完成”でした。このときから今日まで、数限りなく繰り返してきた完成の瞬間、今でも快感なのです。
 
 うらやましいですか、こういう仕事。あなたも今から修行してガーデンデザイナーという生き方を目指しますか。もし本気なら弟子入りも可能です。本気の人には本気で教えますから。ただし、もちろん超きびしいですよ。
 明日から中断していた鈴木邸の完成写真を紹介していきます。



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