昨日のパーゴラに続いて、まくら木も設計上とても重宝する素材です。写真のように立てて使うことで、アイストップとして、結界として、独特の強い存在感を発揮してくれます。

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 まくら木を立てる場合の注意点をいくつか。まず重量がある物なので根入れをしっかりとして、基礎コンクリートを入れることです。その存在感故でしょうか、とても子供の興味を引くらしく、よじ上ったり体当たりをしたりするので、絶対に倒れないように施工する必要があります。ちなみに根入れの深さは地上に出ている部分の3分の1程度必要です。一般的にまくら木の長さは2.1メートルなので、最大に高くしても地上部分は1.6メートル、根入れが50センチ、それをきちっとコンクリートで埋め戻せばまず大丈夫です。

 まくら木が持つ存在感には2つの要素があります。ひとつは単純にボリュームのある材木であるということ。人は材木が好きなのです。同じボリュームのコンクリートや金属や石材だったらとイメージしてみるてください・・・だめでしょ。やっぱりまくら木でないとこの感じは出ません。まくら木だからこういう使い方ができるのです。
 もうひとつの要素は郷愁です。今や鉄道ではコンクリートのまくら木が普通ですけど、40年前、つくしを採ったり、手裏剣をつくるために汽車に釘を踏ませたりして遊んだ線路のまくら木はすべて木でした。それから踏切周辺の柵も使い古したまくら木に有刺鉄線をからめてあるというもの。このように40代以上の人にとってまくら木は、なつかしさを感じさせるのです。それと地方の人にとっては「この線路が東京につながっているんだ」という都会へのあこがれや、先に地元を離れた友人や恋人を思い起こしながら、まくら木をポンポン飛んで歩いた、そんなシーンがよみがえるかもしれません。
 そういう意味では実際に使われていたまくら木がベストなのですが、3年前にちょっとした騒動があって、それい以来本物は超品薄なのです。それは“クレオソート騒動”です。新聞にいきなり出ました「ガーデニングブームで売れているまくら木には、クレオソートという発ガン性のある防腐剤が使われている」。追っかけるようにテレビニュースでも取り上げられて(当時は何にでもヒステリックに騒ぎ立てるような風潮がありました)、あっというまに市場から使い古しのまくら木が消えていきました。まあ、安全性が優先なので仕方ないとして、でも今考えても少々過剰反応だったのではという気もします。いやいや、でも安全のほうが大事です。
 そんなわけで未塗装で未使用のまくら木が出回るようになりました。郷愁という点ではもうひとつですけど、でも時間が経ってひび割れたり反ったりしてくると、かなりいい味を出してくれます。たまに、最初から使用品のような雰囲気を出すためにキシラデコールのウォルナットを2回塗りしたり、角を削ってから使ったりもしますが、あわてなくても徐々に風合いを増して行く、そういう素材です。

 現在出回っているまくら木の材質は、ユーカリ、ケンパス、バンキライ、クルミなどで、写真はケンパスです。ユーカリは黒いシミが出てくるし、バンキライはいつまでたっても堅い感じでアルミ製品のようで好きじゃないし、クルミは手に入りづらい、ということでケンパスを使うことが多いです。材質で気をつけなければならないのは、ガーデニング向けに生産されている“まくら木もどき”を使わないこと。見た目はまくら木でも、木が柔らかくて腐食が早い。土に埋まっている部分は一年でガサガサに腐ってしまいます。要注意。その見分け方は簡単で、持ってみて軽ければ偽物です。本物のまくら木は1メートル以上のものならひとりでは持ち上げられない重さがあります。偽物は軽々です。それから、ノコギリで簡単に切れるものは偽物です。本物はノコギリが駄目になってしまうほど芯が堅くて、切り口が鏡のようになります。
 ついでに、まくら木を立てる場合のデザイン的なことを少々。まくら木はしっかりと垂直に立てないとお墓の卒塔婆のように見えてしまいます。それと規則性やリズムも大事で、そういったことを意識しないで使うと、墓標のような印象になってしまいます。卒塔婆とか墓標とか、縁起でもないことを言いますが、実際にそういう感じになってしまっているモデルハウスやレストランが近所にあって、そこを通る度に「せっかくのまくら木なのに残念だなあ」と感じているのです。この、使い方を誤ってバランスが崩れるとお墓関係にいってしまうのも、それだけまくら木が強い個性を持っているということ。そしてまくら木の持つ郷愁もデザイン的なバランスを失うと、幼い頃に感じた恐怖や不安に移行してしまうのです。癖が強い分効果的に使うのが難しいと言えるかもしれません。



 今朝は雨は降っていないものの空気がどっしりと重くて、こういう日にカラ元気を出すよりも、この湿った空気に身を沈める感じで、設計作業に集中しようと思います。何かに没頭するにはもってこいの日和なのです。で、そんな今日の設計室のBGMは Ryuichi Sakamoto 。この人のは駄作と感じる曲がとても少なくて(おこがましいのですけど)、かけっぱなしでも邪魔にならなくて(おこがましいのですが)、しかもポーン!ポーン!とインスピレーションを与え続けてくれるのです。創作活動にはうってつけです。やがて、私の没頭深度が深くなって、自分が設計図の中を歩き回るような段階になると、いつの間にか意識からフェイドアウトしていて何も聞こえていないという、便利でありがたい音楽なのです。皆様も読書や趣味の時間のBGMにお試しください。



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