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エルビスからさらに話がそれますけど、片岡義男、お好きな方も多いと思います。私は大好きです。きっかけはエルビスです。片岡義男が書いたエルビス研究本『僕はプレスリーが大好き』が私のエルビス・プレスリー入門書だったのです。その本の内容にも夢中でしたけど、読んでるうちにハードボイルドをベースにした彼の乾いた(といってもハワイの空気みたいに心地よい乾き方です)文体と、浅井新平の写真が浮かんでくるような風景描写、そして登場してくるとびきりいかした女性たちのとりこになっていきました。軟弱だという声も多く、一時期は片岡ファンであることを悟られないようにカバーをつけて読んでいたこともあります。そうしながら、熱中癖がある私なので、当然本屋に並んでいる片岡義男は片っ端から読みました。数十冊ありました。今さらですけど、あえて言わせていただきます。片岡義男を軟弱だと評するのは大間違いで、純粋でタフな男にしかイメージできない、完璧な男と完璧な女の、一見軽やかでいて、実は分厚い世界なのです。強い男はマッチョですが、さらに強い男は軟弱に見えるほど優しいオーラを発しているものなのですよ。ただ、『マーマレードの朝』とか『彼のオートバイ、彼女の島』といったタイトルと、コマーシャルフォト的な写真を使った装丁がそういう印象を生んでいたのでしょう。そうそう、その本に使われている写真が素敵で、それを切り取って部屋の壁にはったり、下敷きにはさんだりしていて、そこから写真に興味が行ってニコンFMを購入、街の写真サークルに入ってセミプロのおじさんたちに鍛えられながらこれまた熱中し、押し入れを暗室にして、よく徹夜で現像していました。その趣味は今でも続いています。考えると、ビートルズからエルビス、そして片岡義男に行って、そこから写真を始めて・・・、他にも絵を描き、粘土をこねくりまわし、ギターで作曲してはあちこちで歌い、高田渡や斉藤哲夫のコンサートを主催し、不良グループと遊びまわりながら生徒会長やって、高校で小さな革命運動を熾したり、はては野坂昭如の選挙応援をし、その縁で上京・・・、忙しくコロコロ転がる人生なのでした。ライク・ア・ローリングストーンですよホント。

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そうそう、片岡義男です。神田の神保町で買ってきた古いブルータスを読んでいたら片岡義男が書いた文章が刺さってきました。たぶん1970年代後半に書かれたものでしょう。


住んで面白そうな家には
かならずいい感じの
テラスや中庭があるんだ。

必要だとも無駄だとも言いきれない、きわめて微妙にあいまいなスペースを身のまわりにひとつだけ求めるなら、それはテラスだろう。戸外とも室内ともつかないところが、まず素敵ではないか。このテラスで、ぼくはべつにこれといってなにをするわけでもないのだが、そこに身を置いているときには、当座はまったく必要ないなにか無為なことをやっているにちがいない。
どんなふうに形容することもできない、ごくあいまいな時間と場所が合体して、理想的なテラスになる。そして、このテラスですごす時間を持たないと、何年もあとになってそのことがマイナスのかたちで当人自身に影響を与える。  片岡義男


びっっっっくりしました。まさに『5th ROOM(5番目の部屋)』のことを言っています。30年も前にこのあいまいな空間に気持が引っかかって、そこに感覚を遊ばせた日本人はたぶん彼ひとりだけだったのではないかと。そしてその30年前経って、ようやく私はそれを我々庶民レベルの現実世界に実現することを仕事にしているのです。
考えたら、一時期夢中になって読んだ片岡ワールドが、今の設計、仕事に大きく影響を与えています。仕事だけではなく恋愛や家族や、いわゆるライフスタイル全般で。あのころ片岡義男ではなく中上健次を読んでいたら、五木寛之に熱中していたら・・・きっと今みなさんにお会いしていなかったでしょうし、全く違う仕事をしていたでしょう。若い日に夢中になるってそういうことなんだなあと、この30年目の再会に感慨ひとしおでした。

今彼はどうしているのかなあ。新作を読んでみたくなって本屋を3軒まわりましたが1冊も置いてありません。あんなにズラッと並んでいたのに。時代が彼に追いついたことでことで彼の存在は過去のものになったのかもしれませんね。
きっと今頃マウイ島の自宅で、美しい奥さんとお父さん似の息子(孫かな)といっしょにサーフィンとバイクを満喫して、そしてテラスでよく冷えたバドワイザー飲んでいるんだろうなあ。

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