畑さんちの最終日です。夜の様子をご覧ください。

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私、マンションのルーフバルコニーというと、強烈に記憶に焼き付いている数枚の写真があります。荒木経惟が撮った自宅マンションのバルコニーで、どんよりとした東京の風景をバックに猫のチロや枯れた花やミイラ化したベンチなんかを撮っています。アラーキーをごご存知の方には説明不要ですが、その白黒の風景写真には氏の内面が丸裸で写されていて、怯えや孤独や熱さや愛情がエフェクトなしでそのまま。こちらとしては一瞬の照れを通り越して、気がつくと自分の丸裸を見ている、そういう写真です。わかりづらいですかね。思春期に高村光太郎の智恵子抄を読んだときみたいな感じです、・・・ますますわかりづらいですかねえ。まあ言ってしまえばバルコニーに出るとちょっと暗くて沈んだ、でもイイ感じの情感の世界に入り込むということです。山口百恵がツーッと涙を流している篠山紀信撮影の有名な一枚があります。インタビューでその涙の訳を聞かれた百恵ちゃんは「とても気持のいい曇り空だったから」。山口百恵を伝説の人にし、それを撮った篠山紀信を神格化させた一言でした。そんな感じ。

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その写真に出会ったせいでしょうか、バルコニーには一般的な庭とは違う感情がわいてきます。それは瞑想したり沈思黙考する『修行の場』的な。アラーキーの写真のせいともうひとつは、下の階と下界に広がる住宅地の屋根の数だけそこには家族がいて生活があって、そういう場所だからかもしれません。流れる雲を眺めながら「この空はあの人のいる上空までつながっているんだなあ」そんなこと考えたりするのは地上の庭ではなかなかないことです。
この情感世界をベースにしてそこを夫婦の場所、家族の場所に仕立て上げる。私自身いつもの設計とひと味違う世界を漂うことができて、おそらくずっと記憶に残るであろう、そういう仕事でした。

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それともうひとつ、この場所が実現したのは畑さんご夫妻のお互いへの愛情表現。アァ、普段のその感じをドキュメントで撮影して皆様にご紹介したい、そう思うほどすばらしい愛情表現の日々を送っているご夫婦なのです。うちも負けずに、という気持になりました。出会いに感謝です。