全景をご覧いただきながら、全体構成で考えたことをあれこれ。
ぬれ側のあるガーデニングエリアとバーベキューコーナーというふたつのゾーニングになっています。

0b42f0c4.jpg


バーベキューコーナー(集う場所)をリビングからはなれた場所に設定するのを、普段は躊躇します。というのは日常の導線から外れると、なかなかそこに行かなくなってしまうからです。ほんの数歩であっても、あるいは2、3段の階段であっても、そこに行くのに無意識レベルの軽い決意が必要だと、いつのまにやら遠い場所と認識してしまうもの。今回そうしたのはいくつかの理由があって、まずは奥に行くほどわずかですけど幅が広くて(庭が台形)、ギリギリ囲炉裏を輪になって囲めるスペースを確保できるということ。それから背後に高いブロックがあって、その味気なささえ消せれば、かえってこもった感じの落ち着いた場所をつくれると思ったこと。そしてご夫婦ともにお友達を呼んでバーベキューを楽しむということを、とても具体的にイメージしていらしたということ。コレが一番大きい理由。やる気満々なら、この離れた場所は、『行きづらい場所』から『特別な離れ』というふうに捉え方が変わるというふうに判断しました。たぶん正解だったと思います。

ba99d498.jpg


集う場所を『特別な離れ』にして、「ウッドデッキよりも、木や草花と親しみながらの自然を感じる暮らし方を」という選択でできあがったこの構成。
庭のゾーニングをどうするか考えながら、実は薮田家の『庭のある暮らし』のシーンや家族のストーリーを考える作業だったわけです。最初は理屈と言葉で、次は具体的なシーンに仕立てていく。これからつくろうとする仮想庭で繰り広げられる感動ドキュメンタリー映画、ホームドラマ。それを膨らませる『妄想タイム』に欠かせないのが紙と鉛筆です。文字でも線でも何でもいいので脳内を紙に描き写す。そうやって曖昧なままのイマジネーションを記録することで安心してさらなる妄想を思い描くことができます。やがて無秩序に殴り書きした紙の上で、当初は想像もしていなかったような庭が浮かび上がってくる、こういうプロセスを経てできあがった庭は、必ず家族にとっての大切な場所になるのです。

5c15da06.jpg


つまり庭は、木や石やレンガを使って、どのような配置で、どういう空間構成をするかということ以上に、その場所を舞台にして展開されるであろう、あるいはそうなったら楽しいだろうなあというシーンやストーリーをどれだけイメージできるかによって、その庭の価値、魅力が何倍にも膨らむ可能性があるということ。逆に言うと、楽しいシーンが保証されている場所なら、雑草混じりの芝生だけの庭でも、砂利敷の広場でも、そこは最高の庭なのです。庭の価値はそこで楽しんだ量。楽しんだもの勝ち。世の中には数百万円かけて楽しさゼロという庭もたくさん存在しますし、労力は自分持ち、材料はリサイクルで、植物は生長を待つという方法でまったくコストを掛けないで出来上がっているのに、そこでは笑顔と歓声が絶えないという、そんな庭も存在します。
いろいろなタイプの庭がありますけど、庭の価値を『家族が楽しんだ量』であるとするならば、その庭をつくるにあたってまず考えるべきことは、家族が楽しんでいるシーンをイメージすること。そのイマジネーションを先行させなければ、その場所もコストも、そして家族の時間も無駄になってしまうかもしれません。イメージすること、家族の幸福なシーンを、できるだけ具体的に脳内と紙と鉛筆で思い描くこと、それが価値ある庭をつくるコツです。「イメージできたらできたも同然」なのです。


 
 
雨の日曜日。乾燥していた空気が潤っていい感じです。さっ、今日も張り切っていきましょう!