一柳さんちのビフォー・アフターの予定でしたが、ちょっとティータイムにします。

ぼくが小学校に入ったばかりの頃の記憶です。
いつも遊び場にしていた学校のグラウンドに大きな人だかりがしていました。祭りでもないのに町中から大人が集まって何やらワイワイとしていました。その大人たちの間をかいくぐってその人だかりの中心に潜侵入すると、そこには長靴を履いたおじさんが、拡声器を片手に、もう一方の手を振り上げながら演説していました。とても印象的だったのは、そのおじさんが大声で何かをしゃべると、集まった大人たちが大爆笑したり拍手喝采したり、今思えば北島三郎の舞台のように酔いしれている雰囲気、熱気があったんですね。

その人だかりの中心で演説していたおじさんが田中角栄でした。
地元の(旧新潟三区)では「角さん」という親戚みたいな呼び方の中に「角栄先生」「生き神様」「大恩人」というようなニュアンスも含む、独特の存在。住民が送る視線の熱さと尊敬の強さは、ちょっと方向性は違いますけど北の将軍様に匹敵するものでした。

この角さん、ひとことで言うと「庶民をワクワクさせてくれる」人でした。途方も無い夢、例えば「あの三国峠をブルトーザーで削って平らにすれば、雪は関東平野に降る。そうすれば雪国の苦労が、東京でおもしろおかしく暮らしている人にもわかるんだ」とか「魚沼は世界有数の豪雪地帯なんだから、世界一、国の予算の恩恵を受けて当然なんだ。ワシは国家予算をそっくり魚沼に持ってこようと考えてる」なんていうことを、あの口調でまくしたてたかと思うと、「ところでさ、ボタモチ川の杉ん木(杉の木)は切った方がいいぞ。そろそろ根が張ってきたから水上がり(洪水)のときにゴミが引っかかるぞ」などという超ローカルなことを持ち出したりして、そりゃあもう、純朴な魚沼の人たちは完全に角栄節のとりこになるのです。
ボタモチ川というのは鮎釣りのメッカとして有名な魚野川から田んぼの取水のために引き込んでいる川幅1メートルほどの小川です。その川が流れている町内の人しか知らないような事情を持ち出すあたりが最高の演出で、もうみんな目に涙を浮かべて興奮します。

こんな逸話もまことしやかに語り継がれています。
水沢という陸の孤島とまではいかないまでも、町からはかなり離れた部落があります。季節は冬、そこに向う一本道を蓑をかぶってテクテク歩くひとりの腰の曲がったおばあちゃん。そこに角さんの乗った選挙カーが近づいていって、クルマから降りた角さんがおばあちゃんに「おう◯◯(屋号)とこのばあちゃんだねか。まめ(元気)だっかかねえ。ところでおめさんところの本家のせがれは嫁もらったか?おおそうか、そりゃあえかったなあ」と。これはもう最高のドラマですよね。
あの角栄先生がクルマから降りて来て、たまたま歩いていたおばあさんに、その人の本家の嫁の心配までして、自分の身内のように語りかけていった。雪道を遠ざかる選挙カーに向って、そのおばあさんが手を合わせて拝んでいたことでしょう。

田中角栄という人は・・・。もちろん早川秘書や、最強の集票組織、越山会の人たちの演出なんですけどね。でもそれにワクワクしながら酔いしれた庶民は幸せだったよなあ。

「リーダーとは希望を配る人のことである」

明日は「ワクワクさせてくれる人に一票」でいこうかな。


 

今日は「レノンの庭」にいます。遊びに来てくださいね。