職業によって、庭の好みが違うということがあります。



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新聞記者で、日々悲惨な事件や現場を取材している人は「家にいる時はおだやかな気持ちで、笑顔で過ごしたいから、家族や友人と囲炉裏を囲んで過ごせる庭がいい」とおっしゃいました。



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中間管理職で、毎日終電で帰ってくるご主人は、「家に入る前に庭に行って、頭をリラックスさせています。駅から歩いてきて、家が見えてきて、庭が明るいとホッとしますよ」と。



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お医者さんとパイロットさんは芝生好きです。雑草を抜いたり芝刈りしていると、無心になれるのだといいます。人の命にかかわる仕事なので、日々そうとう強いストレスにさらされているのでしょう。だから庭に出ては草をいじっている。頭が空っぽになるのだそうです。



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で、学者さん、大学教授や研究者は、自然を感じる庭を望みます。
神経伝達物質の研究をされているご主人が、庭に流れをつくってホタルを育てたことがありましたし、他にも何人か、落ち葉に埋もれるほどの雑木の庭や、リビングからバードウォッチングができる庭とか、そういう「自然を感じながらの暮らし」を目指した庭をつくってきました。



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猪俣さんも
何冊も本を書かれている学者さんです。そして「しっとりとした自然を感じながら暮らせるような庭」を希望されました。
やっぱりそうなんです。学者さんは「庭で自然を感じたい」と思う職業。



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数学者の藤原正彦さんは、父親である作家の新田次郎さんから与えられた最大の財産は、自然を感じることで培われた美的感受性であると言っています。



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分子生物学の福岡信一さんは、「センス・オブ・ワンダーを探して」という本を書いていますし、遺伝子研究の村上和雄さんは、科学を哲学にまで高めて「わたしはサムシング・グレート(すべての生物の親)の伝道者になりたい」と言い、人間は自然の一部であり、自然に倣って、いい遺伝子のスイッチをオンにしながら、よりよい生き方を目指すべきであると言い続けています。



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睡眠研究の根来秀行さんは、地球のリズム、自然に準じた暮らし方で、体内時計を正常に機能させることの重要性を説いています。季節を全身で感じながら、お天道様の動きに合わせて暮らすことでいい睡眠が保たれ健康が維持される、ということです。

何の分野であっても、学問を突き詰めていくと哲学になります。そしてすべての哲学は、自然の営みの上にあるということに気付くのです。



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久しぶりにこの庭に立って、
猪俣さんが望んだ庭、明確に、自然を感じながら暮らしたいという思いがあってできあがった庭を、その望み通りに楽しんだ3年間だったことが感じられました。



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ところで、この取材のテーマは「日陰の庭」です。
一般的には「日照が少ない条件の場所でもちゃんと育つ植物はいっぱいあるし、十分に庭を楽しめますよ」という考え方で日陰の庭、シェードガーデンが語られます。
でもここは普通に日が差す庭です。そこをあえて雑木林にして日陰をつくった、積極的にシェードガーデンを目指した庭なのです。



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明るいばかりが庭の魅力ではありません。



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これって人も同じですよね。明るけりゃいいってもんじゃないって感じること、ありますよね。
繊細でしっとりとした人間関係、そういうのもいいんだなあ。



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夏の暑い日に森に入ると、街場よりも10℃近くも温度が低いことがあります。
薄暗く、空気がしっとりとして、木々が発散するフィトンチッドで、地中の微生物だけじゃなく自分まで活性化してくることを感じます。清々しいって感じ。



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シェードガーデンからは、森にいるのと同質の癒しが得られます。




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「癒し」というと、傷を癒すとか、そういう「修復する」という意味になります。
庭から得られる癒しにはもうひとつ「調整」ということがあります。
「修復」はマイナス域にある自分を、よりプラマイゼロに近づけようとすることで、「調整」は、より高いプラス域に行くための準備です。



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庭から得られる癒しは「修復」と「調整」。
庭を感じることは、イキイキと暮らすためのメンテナンスなのです。
庭に出る習慣は、プラス域の人生に欠かせません。



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すべての学問は哲学に通ずる。そして学者さんが庭に「自然を感じること」を求めるのは、それが哲学的に大切な、人がよりよく生きるために欠かすことのできない要素であることを、それぞれの研究分野における見地から知っているからなのです。



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庭で自然を感じながら、自然に倣って暮らす。
そこからずれたら、いろんなことが、・・・なかなか難しいですよ。
庭をつくり続けて、庭を楽しむ人を見続けて、自分も庭に出続けて、感じることです。




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人の暮らしと自然を感じられる庭、人と自然、暮らしと庭の関係性を思うとき、そこに方程式のようなものを発見できます。



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人は庭に同調しても、庭は人に同調しません。庭からは決して人に同調してくれませんが、人が庭に同調すると、すぐに共鳴が起こります。



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つまり、庭はあなたに手を差し伸べないけど、あなたが庭を意識すれば、即座に庭と感じ合うことができる、ということです。



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「庭はあなたに手を差し伸べない」なんて、庭屋のぼくが言い切ってしまうって、ちょっと意外に思うかもしれませんけど、でもそうなんですよ。あなた自身が庭に向き合わない限り、庭はおせっかいに話しかけてきたり、あなたの傷を修復したり、あなたを励ましパワーを注入したりはしません。そんなことは有り得ないのです。



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なぜそう言い切れるのかというと、人間と自然の関係性がそうだから。

自然があなたを癒し、よりよく生きるためのパワーをくれるのは、あなたが自然にそれを求めたときだけです。



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長く悩みの中にあったり、気持ちがささくれ立ったままで大自然に入って行っても、自然はあなたを救い上げることはありません。絶望的な気持ちで富士の樹海に入って行ったら、自然にじゃまされることなく、その目的は果たされます。
でしょ、そういうもんなんですよ。



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海洋冒険家で、風だけを頼りに単独で地球を3周した、日本一の海洋冒険家、白石康次郎さんはこう言いました。

環境保護って言うけど、自然は守られたいなんて思っていませんよ。環境が破壊されて困るのは人間の方で、地球は何も困らないんだから。

強烈な言葉でした。パシッと右フックをもらって、目が覚めた思いがしました。



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人と自然、人類と地球がそういう関係性にあることを知った上で、さあ、あなたは庭をどう捉えますか?



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猪俣さんちの庭のことを考えているうちに、壮大な話になりました。
どうでしょう、庭に出たくなったでしょ。庭を持っていない人は、庭が欲しくなったでしょ。



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あなたが庭(自然)を意識して、あなたが庭(自然)のことを慈しんで、あなたが庭(自然)のある暮らしを始めたら、庭(自然)は即座にあなたと共鳴を起こします。
庭(自然)と共鳴する暮らしをする人を、地球は守り導いてくれます。
それはつまり、あなたが、地球が望む自然環境の一部に仲間入りさせてもらえるということです。


すべての学問が哲学になっていくように、庭を楽しむこともまた、哲学なんだよなあ。



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さっ、庭に出て、自然との共鳴を感じましょう!
そう思えば、雑草取りもまた楽し。