園芸療法というものがあります。
庭仕事や草花に親しむことによって病や不調を改善へと向かわせようという試みで、老人ホームや養護施設などで行われています。

園芸療法による効用の鍵は「記憶」。
植物によって、幼い頃、元気だったころの記憶を呼び覚ますことで、心身を活性化させるのです。




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これはアロマセラピーも同じですよね。
ぼくは凝り性なので、以前夢中になり、部屋には数十種類のエッセンシャルオイルとアロマポット、ビーカーと試験管、アロマキャンドルやお香、フィトンチット成分を濃縮したという怪しげな液体まで取り揃えて、さながら実験室のようになったことがありました。
さんざん本を読みあさって、自分を使った人体実験を繰り返して、そしてたどり着いたのがこれ。

子どものころに嗅いだ香りが記憶を引っぱり出してくれることで、安らいだり、元気が出たり、熟睡できたりする。



片桐邸 昼3
片桐邸 夜



導き出されたひとつの結論です。

高価なエッシェンシャルオイル以上の効果が、庭にいることで得られます。

もちろんアロマは楽しみつつ、庭に出ることにもそういう効用があるのだということも意識してください。
ぼくにはローズとラベンダーはマストアイテム。他に、ちょっと強烈ですけどイランイランが大好きです。
イランイランは月下美人の香り。妻と出会った最初の夏に、近所で月下美人が咲いたというので見に行ったときの香りです。まだ恋愛真っ最中で「世界はふたりのためにあるんだ」くらいに思っていたあの日の記憶を呼び覚ましてくれる、想い出の香りなのです。
え!いま?さすがに「世界はふたりのためにある」なんて思いませんけど、「世界のためにふたりがいる」くらいには思っています。どうもふたりとも、革命家(夢想家)体質なもんですから(笑)。



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恋愛の記憶、それはそれで大事にするとして、もっと大事なのは幼い日の記憶です。
まだ愛情という言葉を知らない頃、実はあふれる愛情に包まれ育まれていたあの日の自分を思い出すことが、どれほど人を元気にしてくれることか。
夢破れ、志しは折れ、疲れ果ててしまったときに、最後に自分を支えてくれるのはその愛された記憶だということを知る日が、きっと誰にでも訪れます。

自分が立っていられるのは、幼い日に、自分を愛し育ててくれた人たちがいたから。
そのときに育った根っこがあるから、倒れずにいられる。




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自分を支えてくれる記憶を引き出すスイッチを、普段から用意しておきましょう。
ぼくの場合、香りでいうと土と草イキレの香り、花火の煙、仏壇の線香とトクホン(膏薬)がセットで、温泉場の香り、籾殻を焼く煙の香り。
視覚的には流れる雲、キラキラと光る水面、ホタルの光、四季折々の田んぼの風景。
音だと、雨蛙の大合唱、トタン屋根を打つ雨音、潮騒、せせらぎ。
音楽だと、これ、NHKラジオの「昼の憩い」のテーマ曲です。いつ聴いても記憶の世界へとワープします。







記憶の引き出しを引っぱり出しながら、元気に、豊かな気持ちで暮らしましょうね。
同時に、あなたのまわりのすべての子どもたちに、すてきな記憶をプレゼントしましょう。
花いっぱいで、土や風や空や光に触れながらの楽しい時間が、彼等の最大の資産となるのです。

たくさん自然を感じて育った子どもには、大人になるとやってくる嵐に耐える、たくましい根っこが育ちます。



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って考えると、子育てには庭が必要ですねえ! 
庭は自然を感じることができる外の部屋。大人も子どもも庭に出て、自然と交信しながら暮らしましょうね。


もしも心が疲れたら、幼い日の記憶につながる音、香り、味、触感、風景などをどんどん活用して、元気いっぱいな自分へとリカバリーにながら暮らしましょう。
「自分を信じることが大事」って言うでしょ。
ここですよここ、この局面で自分を信じるんです。

自分を信じるとは、自分を可愛がり育ててくれた、たくさんの人たちの愛情の大きさを信じること。

愛されて育った自分の根っこを信じきれば、また平気で葉を茂らせることができます。
大丈夫、あなたは存分に愛されて育ちました。
でしょ。