午前中にふたつ、お客様との打合せをし、午後は「レノンの庭」で設計作業に没頭して、やりかけだったけっこう大きな仮想庭を描き上げ、心地よい充実感を味わいながら帰宅しました(2013年のラストスパート)。妻はまだ仕事の真っ最中で、あちこちと慌ただしく電話連絡をしていました。
KYH(空気が読めるハズバンド)のぼくとしては、とりあえずビールを注いでグビグビッと飲んでから、無言で夕飯を作り始めるわけです。
トントントンと見事な包丁さばきの音に自分で酔いながら、聞くともなしに妻の電話の会話が聞こえてきます。
「アア、ご苦労様です。あのベンチなんですけどね、フリクが悪いからゴムパッキンはさんで欲しいんですけど、お願いしますねえ〜!」、施工中の現場の職人さんとの会話です。



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ぼくの包丁は止まりました。
フリク!?・・・ちょっと感動。
何かといいますと、「フリク」というのは土木の専門用語で、妻が知っているはずもない単語だったからです。
もともと法律書や教科書や学術本の編集者だった妻を無理矢理ぼくの仕事に引きずり込んで12年、気がつけばこんな専門用語まで使いこなすようになったのかと、何だかグッと胸に来たのでした。
二人三脚で、最初は転けてばかりいてお互い傷だらけ。何とかふたりで歩を進めるリズムをつかむことができるようになるまでに数年を要し、気がつけば今は妻の方がバリバリと仕事をこなし、ぼくの役回りとしては、ひたすら「家族を幸せへといざなう理想の庭」を思い描くだけ、というところまで来ました(夢のような展開)。
だから妻の口から自然に出た「フリク」という専門用語に、ぼくらのこれまでの戦いと、妻の人並み外れた勇猛なファイトのシーンがよみがえってきて、ウッ・・・手元のまな板が、ジワーッとにじんだのでした。

我が夫婦には、語り尽くせない共闘の歴史があります。

まあ、すべてのご夫婦にあるんでしょうけどね。
「夫婦は戦友。そろそろ戦士の休息の庭が欲しいんです」というご要望の客様がいらっしゃいましたが、今とってもわかります、シミジミと。
 


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「フリク」は漢字で書くと「不陸」、陸が不、地面が凸凹の状態を言います。
土木の公共事業の設計書には必ず「不陸整正」という項目があり、それはいわゆる地均し作業のことです。
ぼくは妻に言いました、「職人さんはそんな単語は知らないかもしれないよ」と。
案の定その職人さんはピンときていなかったようで、妻はそれを察知して、すかさず「ベンチがグラツイているから」と付け加えたそうです(その職人さんは造園系の方だったので。公共土木事業に携わったことのないと知らない単語なのです)。



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いわゆる IQ も EQ も高めの妻は、とにかく言葉や物事を吸収して自分のものにする能力に長けています。お客様に熱く庭を語るぼくの言葉とその本質まで、すぐに自分のものにしてしまいます。
日々その能力に感謝しながら、妻が急がしそうな場面では、ぼくは包丁や掃除機や洗剤や犬たちのリードを手にしているわけです。っていうか、もともと家事は半々が当たり前って気持があるタイプなんですけどね(あんなに楽しいことに参加しない手はありません)。
ショーンが生まれ、子育てと家事のために音楽活動を休止していた、主夫のジョン・レノンに憧れていましたから。



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妻から出た「フリク」という思いがけない言葉から、これまでのふたりの歴史がよみがえり、何だか自分たち主演の大河ドラマを観たような感動を味わった、そんな夕げでした。
そろそろ妻に楽をさせてあげたい気持はあるものの、なかなかそうはいかない現実。
まあ本人は時に文句を言いながらも楽しそうな充実の日々ですから、もうしばらくその活躍を頼りにしようと思います。時々、軽やかな包丁の音を鳴らしながら。

この話、明日に続きます。
とは言ってもぼくらの夫婦物語ではなく、フリクについての考察です。
けっこうおもしろい話になるんじゃないかなあって思っていますので(まだ書いていませんけど)、お楽しみに。