早朝の舞岡公園ですれ違う人は大きくふたつに分けることができる。挨拶を交わす人と無言でかすかに頭を下げる人だ。巨大なカメラを担いでいる人は例外なく前者に分類されるので、ぼくは距離的にいいタイミングで「おはようございます」と挨拶をし、大概はいい笑顔で、ちょうどいいボリュームで返してくれる。
6時少し前、いつもの池のほとりに近づいて行ったら三脚を立てて携帯椅子を広げて腰掛けている、ぼくより10歳くらい上のバードウィッチャーがいた。

おはようございます。

おはようございます。いいカメラ持ってるね、ソニーだね。

ええ、α7Ⅱ です。

ミラーレス一眼の先駆け。α7から改良されてるからづいぶん使いやすいでしょ。ピントを拡大できるのが強みだよね。

詳しいですね。

ああ、カメラ好きだから。道楽ですよ道楽。


その人が据えているカメラはキャノンで、ぼくのより3倍の値段がする機種だった。そして迷彩色のカバーをかけた超望遠レンズは、多分ぼくの自慢のレンズの10倍はする。身なりはとても質素だが道具には糸目をつけないという典型的なマニアの姿。バードウォッチングとはそういうもので、役所か大学か大手企業を勤め上げた理系男たちの楽園的趣味なのだ。

カワセミならいま下の小川にいるよ。ヤツの動きはわかっているからここで待っていれば来る。

そうですか。ぼくは花探しなもんで一回りしてきます。


バードウォッチャーの予言をぼくは信じた。ぼくは花に集まる蝶の動きが大体予測できるので、それと同じことだ。
菜の花とツクシの群生と田起こしが済んだ里山風景を撮り、1時間ほど歩いて池に戻ると、さっきの預言者が撮影中だった。ぼくは足音を忍ばせてそこを通り過ぎようとしたら、小声で話しかけてきた。

ほら、あそこあそこ。

予言が的中するであろうというぼくの予測が的中したことにニヤリとしながら、ぼくもシャッターを切った。



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これまでお客様にもバードウォッチャーは何人かいた。どの人も爽やかに凝り性で、ユーモラスで、愛妻家か、あるいは恐妻家だった。人生の仕上げの時期に、こういう自然相手の趣味を持つのは素晴らしいことだと思う。
存分に撮って店へと急ごうと歩き出したぼくに、バードウォッチャーは言った。

花もいいよね。女房が花好きでね、俺は鳥好きで、両方酒好きだ。

ぼくは振り返って、「じゃ」と言ってこくっと頭を下げた。笑顔付きで。
夏日になるという予報の、気持ちのいい朝だった。