空の穴だよ。

カンパネルラは天の川のひと所を指差しました。ジョバンニはそっちを見てギクッとしてしまいました。そこには大きな真っ暗な穴が口を開けていたのです。



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ぼく、もう、あんな大きな闇の中だって怖くない。きっとみんなの本当の幸いを探しに行く。
カンパネルラ、どこまでもどこまでも、ぼくたち、一緒に行こうね。

きっと行くよ。
あ、あそこの野原を見て、なんてきれいなんだろう。みんな集まっているよ「ハルレヤ、ハルレヤ」って。きっとあそこが本当の天上なんだ。ほらほら見て、お母さんもいるよ。

ジョバンニはそっちを見ましたが、うすぼんやり白く煙っているだけで、カンパネルラが言ったよに思われませんでした。なんとも言えず不安なようなさびしい気持がして、しばらくそっちをぼんやり見ていましたが、再び決心を言葉にしました。



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カンパネルラ、ぼくたち、どこまでも一緒に行こうね。

振り返って見ると、もうそこにはカンパネルラの姿はありませんでした。

カンパネルラ!

ジョバンニは、まるで鉄砲玉のように立ち上がりました。何が起こったのかを悟り、誰にも聞こえないように窓の外へ身を乗り出して、力いっぱい激しく名前を叫びながら、もう喉いっぱいに泣きました。そうしてから一人きりになった黒い別珍の腰掛けにへたり込んで、泣き続けました。

ひっ、くくっ・・・



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何を泣いているんだい。

その時そばに、黒い帽子をかぶった車掌がやさしく笑っていました。

わかるよ、友だちがどこかへいなくなったんだろう。あの人はね、遠くへ行ってしまったんだ。だからもういくら泣いたって無駄なんだよ。

でも、ぼく、カンパネルラとどこまでも一緒に行こうって約束したんです。

そうか、誰でもそう考えるだろうけども、でも誰も一緒には行けないんだ。
いいかい、よく聞いて。みんながカンパネルラだ。だからきみはさっき考えたように、あらゆる人の一番の幸いを探し出して、そこへ行きなさい。そこでならカンパネルラと、いつまでも一緒だよ。




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ああ、ああ、そうなんだね。なら、ぼくはきっとそうします。
でもそれを見つけるには、あらゆる人の一番の幸いを見つめるにはどうしたらいいんでしょう。


きみはきみの切符をしっかりと持ちなさい。そうして一心に励まなければならない。
たしか庭師になりたいって言ってただろ。きみは、庭が人々を幸せにする場所だって知っているよね。きみはそれを疑わない。何度も何度も見てきたように、本当にそうなんだから。けれども多くの人はそんなふうには思っていなくて、たくさんの庭が未だ息を潜めたままだ。

外にグレシオスの鎖が見えました。

今みんなが、自分の家の庭こそ本当の庭だと言うだろう。こんなもんだよと、これでいいんだよと。けど、もしもきみが懸命に仕事をして、本当の考えと嘘の考えを分けることができたら、そのことを人々に示すことができたら、きみのその庭への思いはもうごく当たり前のことになる。その鎖を解くのは簡単ではないだろう。だがそれをやり遂げることが、きみが持っている、特別なチケットの意味なんだ。



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その時、真っ暗な地平線の向こうからサウザンクロスに向かって青白い狼煙が打ち上がり、汽車の中がぱあっと明るくなりました。

あっ、あれは大マゼラン雲だ。なんて美しいんだろう。

さ、切符を持っておいで。この夢の鉄道は、やがて本当の世界の線路につながる。きみはどこまでもその気持ちのままで進むのだよ。

はい。ぼくはきっとぼくのために、お母さんのために、カンパネルラのために、ザネリのためにも、本当の、本当の幸いをさがします。



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ジョバンニは唇を少し噛んで、清々しい顔で立ち上がりました。
いつも頭の中に思い描いてきた、胸の内に抱きしめていた、そこにゆけばどんなことも叶うという、しかしまだはるかな先に光っている、M78星雲の方角を見つめて。





今日は港南台店にいます。