わたしは嫌なの!もうねえ、うんざりってこのことよ。ああ嫌だ嫌だ。もうイヤ、こんな生活。

ぼくより何歳か上と思われるご婦人が店に入るなり何らかの窮状を訴えた。

えっ、い、いかがなされました。

わたしにはこれ以上無理なのよ。若い頃は夢中で花を植えてね、バラもいっぱい咲いていたしハーブだってたくさん育てたんだけど、今年は暑かったから庭に出る気がしなくて、すっごい暑かったでしょう、異常よねこの気候。そしたら背丈ぐらいの雑草のジャングルになっちゃって、ねえどうしたらいいのかしら。

はいはい雑草対策、ですね。

あのね、対策とか工夫とか目標の明確化とか費用対効果とかそんなレベルじゃなくて、主人もいっつもそういうこと言うのよね、営業会議みたいな言い方。そういうんじゃなくてえ、木も草も全部引っこ抜いて庭を端から端までタイル張りにしたいんだけど、どう思います?

ぜ、全部ですか。それならそれでよろしいんじゃないでしょうか、スッキリするし。その後でタイルの庭での楽しみを考えたらよろしいのではないかと。

でもね、でもね、土がないってさびしいのよねえ。それにほら、タイルってお金がかかるじゃないですかあ。庭にお金はかけたくないのよ。

はあ、なあるほどですねえ。では砂利を敷いたらいかがでしょう。厚く敷けば雑草は抑えられますよ。それに砂利だったらご主人に労働をしていただけば、出費は材料費とご褒美のビールくらいだから安上がりかと。

ええ〜、砂利い〜、味気ないから嫌ですう。もっとおしゃれにしたいのよね。わたしってほら、お花に囲まれて暮らしたい人だから。ねえ、どうしたらいいのかしら、わたし。

ん〜・・・・
わかりました。もしかしてだけど〜、もしかしてだけど〜、レースのカーテンが閉まってんじゃないのお〜。おっと失礼、歌ってしまいました。でもいかがですか、もしかして、カーテン閉まってるでしょ。

ええ閉まってますよ。今の家に越してから十数年ほとんど閉まってますけど、それが何か?前が道路だから開けられっこないじゃないですか。

それです。ややはりそうでしたか。じゃなかったら奥様のお話はつじつまが合わなすぎますから。

あら、なんだか杉下右京が犯人の目星をつけたようなおっしゃりかたね。まいいわ、わたしは無実よ。

ええ、もちろんなたは無実です。犯人は・・・いずれわかります。それよりも奥様、カーテンが閉まっている状態でいくら花を育たところで暮らしていて何も見えないし、たいして楽しくないでしょう。それに庭をタイルにしようがイングリッシュガーデンにしようが、仮に相応のお金をかけたところで、それであなたの幸福感が増すことはありません。新たな不満と苦労が増すばかりです。何せカーテンによって、庭は生活空間から切り取られて暮らしの外に追いやられているわけですから。タイルにすれば雑草取りの労力は軽減されますが、それはマイナスがプラマイゼロに近づくだけのことで、ほんの1ミリもプラス側に行かない行為なわけでして、賢いあなたはそのことを無意識に察知しているから「庭にお金をかけたくない」となるのです。


ぼく少し長めな物言いに、反論やら言いたいことが喉元いっぱいまでたまっているという表情の奥様の口から、オーメンだったかエクソシストだったかみたいに緑色の何かが吹き出しそうだったので、それを制して話を続けた。

チョト待ってチョト待ってお嬢さん、もう少しお聞きくださいね。
ち〜いさ〜い頃〜は〜か〜みさまがいて〜。あ、失礼、また歌ってしまいました。やさしさに包まれたなら、ご存知ですよね。「カーテンを開いて、静かな木漏れ日のやさしさに包まれたなら、目にうつるすべてのことはメッセージ」って、あれですよ。新居に入った時点で目隠しをあきらめて、あるいは思いつかないままにカーテンが閉まっているのが当たり前になってしまうとですね、将棋で言うところの穴熊に追い込まれてしまいます。将棋、ご存知ですか?

ええ、祖父が将棋好きだったので少々。

穴熊とは居飛車からの囲い技です。はまってしまうと八方ふさがり、四面楚歌、解なしにして出口なし。そうなると必ず出てくる言葉がありますから並べてみますね。「土いじりは嫌いだから」「日に当たりたくないから」「暑いから、寒いから」「虫が苦手だから」「そりゃあお金をかければいい庭になるでしょうけど」「主人が反対するから」「水はけが悪いから」「日当たりがよくないから」「忙しくて庭どころじゃないのよね」。ついには「庭は嫌いなの」ときて、最終的には「わたしはあなたのことが嫌いなの」と言って去ってゆくのでありました、とさ。めでたしめでたし。

男女7人を教科書に恋愛を学んだバブルの残党にありがちな、やや強めに自己主張をするご婦人が気分を害されるであろうことを承知の助の荒療治、息継ぎの回数を最小限にして一気に話し終えたらあ〜ら不思議、意外にもオーメンは瞳を輝かせた鈴木保奈美になっていて、今にも「カンチ」と言い出しそうだった。

あなたって面白いわね。わたし、ユーミン好きよ。

そうだと思いました。だって奥様、真夏の果実のプリント柄を身にまとっていらっしゃるから。

あらやだ真夏の果実はサザンでしょ、ユーミンは真夏の夜の夢よ。

あははは、そうでしたそうでした。で、いかにしたらその穴熊囲いから抜け出すことができるか、お知りになりたいですか?

ええええ、教えて教えて。

方法はですね、たったひとつ、ぼくに設計依頼をすることです。

あなたって本当に面白い人ね。ああ主人にこれくらいのユーモアがあったらこんなに毎日イライラしないのに。稼いできてくれるのはとってもありがたいんだけど、真面目なだけで冗談なんか言ったことがない。この頃じゃお顔がおじいさんに固まっちゃって笑いもしないのよ。ああもうつまんないったらありゃしない。昔はけっこうイケてたんだけどなあ。

ほらほら、それが穴熊のセリフ。

はは、ほんとにそうね。うん、わたしわかっちゃった。なんとなく覚悟はしていたのよね、お友達からあなたのことは聞いてたから。少し変わった人だけどすてきよって。

おやおや、それはそれは。時々言われますよ、前半部分だけ。

で、わたしのお庭、設計お願いできるかしら。

モチのロンですよ奥様。

ねえねえこれってさあ、わたしがあなたに穴熊にされたってことよね、もしかして。

はい、藤井聡太もかくやという駒運びだったでしょ。ふふ、王手です。

参りました。投了〜〜〜あははは・・・

かくしてやり甲斐のある仕事がまたひとつ。ふふ、少々トゲがあって、しかるにバラよりも美しい、ワンレンボブにつば広ストローハットの奥様、プランの完成を楽しみにお待ちくださいませ。



暴れるように動きまわるアメンボウにピントを合わせていたら、
突然ファインダーに飛び込んできたヤマバト(キジバト)。
あービックリしたー。

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昨日のエンタメ情報によると
カンチとリカが27年ぶりにドラマで共演するそうで、
いやあ懐かしいですなあ「東京ラブストーリー」。
ラブストーリーは突然に、出会いはいつも突然に、
仕事もこうして、ある日突然に。 





今日は港南台店にいます。