ダ・ヴィンチを始めとするルネサンスの美術職人たちにとって「美」は科学的現象であり、彼らは心に影響を与えるその得体の知れないエッセンスの正体を解析し数値化する、神の領域に踏み入ろうとする研究に取り憑かれました。その結果得られた神秘の比率が、自然界を支配すると言われているフィボナッチ数列から導き出される1:1.618、黄金比です。職人たちはその比率と遠近法のふたつの「美のカノン(規定)」に従い、次々とカンヴァスに計算された美しさを描いてゆきました。
1:1.618、設計しながこの割合は常に頭にあり、線を引くときの手癖のようになっていて、だからぼくは安定的に自然なバランスの庭を生み出せているのです。



上下左右共に 1:1.618
 
1:1.618



ただしそれに終始すると、カノン進行の曲が取っつきやすいのに飽きられるのも早いことに似て、主張がなく趣きに欠ける仕上がりになってしまうため、あえて局所的に1:1(自然界に存在しない不自然さ)、上下左右を均等にして意思表示のインパクトを出します。



1:1

1:1



全体的な比率を2:8までデフォルメすれば、異次元空間にいるような非日常の世界となる。これはリゾート感の演出に重宝する手法です。



1:8 

1:8



さらに超絶応用編として天地をひっくり返すと世界は一変。店舗やイベントの仮設庭園、商業施設の庭づくりに使う奥の手です。



空が湖面になる

湖面になる



仕掛けをもう一歩進めて、上下はそのままに、左右を1:1にしてみます。すると世界は視覚から心の内へと広がってゆき、そこには河口湖の水面を見つめて物思う人の心情が浮かんでくるのです。



物思う



おしまい。
秋から冬へ、こういうことをつらつら考えるのが楽しくて仕方ない今日この頃。