地球上で最も人を魅了するバラという花の、その華やかにして魅惑的な、妖艶でありながら清楚なる天使の正体とは何でありましょうか。
ひとつ確かなことは、女性はその花に自分を投影して生命エネルギーを発電し、つまり元気になる。男性はうっとりとし、遠い日の花火が蘇るような、その音と光と香りの記憶に酔うような、つまり恋をするのです。ということは、バラという名の天使の性別は女性なのであります。
古来よりバラにまつわる物語は数知れず、その中でも飛び切りにその特異な花の本質を物語っているのが、例の美しき女性と醜い野獣のラブ・ストーリー。ラブ・ストーリーは突然に、舞台は感動のハッピーエンドから、鳴り止まぬカーテンコールを受けての第二幕へと移ってゆくのでした。
ラブ・ストーリーとはネヴァー・エンディング・ストーリーなのでありますよ貴理子さん。おっと余計なことを。でもマジ大丈夫、あなたは物語をひとつ終えたのではなく、今まさに、咲いたのですから、っと余談が止まらぬ悪い癖。では満開から庭に花びらが舞い、やがて味わい深きローズヒップの収穫へと至るまでの過程をお楽しみあれ。



赤は別格にして格別に。 
 
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ああ、愛しき Beautyベル、天使のような君のことだから、きっとおとぎ話を信じているよね。では、ぼくらがおとぎ話になるっていうことはどうだろう、信じられるだろうか。友達ですらなかったぼくらが永遠に愛し合うことになるというこの意外すぎるシナリオを、きみは信じてくれるだろうか。

ええ、予想もしていなかったのに、こうして始まってみたら必然だったような気がするの。ねえ、そう思うでしょあなたも。ぜんぜん予想外だったからまだお互い何の準備もできていないけど、怖い気もするけど、でも。
ああ、Beauty and the Beast 。

恋に落ちるってこういうもんだよ、昔からね。いつも思いがけないし、突然だし、だけどそれはいつも、太陽が昇るみたいに確かなことだ。

そうね。ほこりをかぶった絵本や、今じゃプレーヤーもないから二度と聴かないと思うレコードや、捨てられずにいたたくさんのものを捨てることでリセットできた気がするわ。一瞬で過去の何もかもが間違いだったんだと気がついたみたいに。

古い絵本は捨てる瞬間に新しい鼓動になる。古いレコードがまだ新しかった頃に感じた激しくて懐かしい鼓動に。ああ美しき人よ、ここからぼくらのおとぎ話が始まるんだ。
おお、Beauty and the Beast 。




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ところで、Beast、わたしたちの新居は用意できているのかしら。きっとまだよね、突然の展開だったから。

うん、まだ何も。

いいのよ、そうよね、まだ何も用意できていないわよね。それでいいんだけどそのままではだめ、わたしは庭がない暮らしは無理だから。

えええ、庭?

そう、庭。

いいじゃないか、これからぼくたちはここで暮らすんだから。広大な庭があるこの城で。

ちょっと待って、Beast 。わたしは過去を捨ててあなたと暮らそうって決めたの。あなたは私のために、わたしにふさわしい新たな城を築いてくれなきゃ、庭付きのね。そんなことすらできないんだったこの話はご破算、なかったことにしましょ。

お、お、おい、待ってくれ。そ、そんなあ・・・。

だってそうでしょ、この庭はあなたの過去なのよ。その過去の舞台に魔女の呪いが解かれたあなたが加わっても過去は過去のままでしょ。過去の庭で暮らしたら、あなたはあの恐ろしくて醜い過去のあなたに戻ってしまうに違いないわ。

そんな言い方はないだろ。なんだよまったく、この高慢ちきなわがままお嬢様。

あら言ったわね。そうよ、あなたはそういう人なのよ。でかい図体とやさしい物言いのコントラストで女をたぶらかす化け物にねえ、わたしの気持ちなんてわかりっこないんだから。なによ、「いいかい、心の瞳で見つめるんだ」とか言っちゃって。そんなフリを出されたら誰だって乗るしかないじゃない。どうやら私の決断は、果てし無き後悔の航海が始まるドラの音だったようね。

・・・、・・・、ごめん、Beautyベル。わかった、よおくわかった。ぼくが悪かった、どうか機嫌を直してくれないだろうか。

あらBeast、案外物わかりがよろしいのね。

はい、愛しきベル、白状すれば父は極度な恐妻家でしたから。ぼくにはとても優しかった母は父に対して結構きつかったようで、ことに酒が入ると人が変わったように狂ってしまいそれはそれは悲惨な日々であったのだと、後に侍従長から聞きました。父は母の酒癖の悪さに怯え、刃のような暴言に苦しみ続ける人生だったそうです。女性への物わかりの良さは、そんな苦悩の末に、論理を度外視した母への従属しか選択肢を見つけられなかった、そんな悲しく哀れな父譲りのものです。

なるほどね、けっこう大変だったのね、お父様。ご同情いたしますわ。同情ついでに、おかげであなたが物分かり良く育ったことに感謝もいたしますわ。ついでのついでにもうひとつ付け加えるなら、お母様がアル中になったのは誰のせいなのかしら?きっとお父様が国政に夢中でお母様の欲求に気づかなかったからだと思うんだけど。女が欲求を満たされないときに狂うのは、神が与えし最大の特権だということはシェークスピアという戯作者の常套句。狂った者勝ちなんだからお母様は勝利者そのもので、お父様はただの敗者なの。あなたはその哲理を学べたんだから幸運だったわね。あなたも幸せになりたいなら、せいぜい私の欲求を満たすことに専念なさいまし。

御意。で、お嬢様、どんな庭がお好みで?

そうねえ・・・とにかくここの庭は嫌いなの。トピアリーがシンメトリーで、真ん中に噴水があって、一年中美しく整えられていて花が咲き乱れている、まるでアルコールとドラッグでメンヘラに傾いてしまった頃のミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオが描いた絵のように、華麗なる狂気に満ちていて、同時に逃れようもなく醜悪で、まごうことなく美的に優れているのに見れば見るほど果てしなくつまらない庭。カラヴァッジオは大好きよ、バラもね。でもわたしはもっと美しい花を咲かせたいのよ。

バ、バラよりも美しい花?も、も、も、もしかして、布施明の・・・・

そういうこと。わたしはね、わたしが主人公の庭が欲しいの。つまりわたしが輝ける庭、わたしが絢爛に咲くための庭が欲しいのよ。



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姫君、質問を続けてもよろしいでしょうか。

ええどうぞ、構いませんことよ。

ああ、エマ・ワトソンのごとき美貌で、エマとそっくりでぼくのようなおっさんにはエマと見分けがつかないアリアナ・グランデのように華麗にして愛くるしく歌う姫君よ、あなたのイマジネーションの宮殿に映し出されている理想の庭風景を、わたくしめに詳しくお聞かせください。

いいわ、教えてあげる。
まずはバラ、世界中のバラがわたしにかし付き一年中咲いていなければ庭とは言えないわ。ピエール・デュ・ロンサール、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ディオール、ドゥヌーブ、ヘプバーン、ドゴール、フェルゼン、モリエール、チャイコフスキー、ヨハンシュトラウス、みんなわたしのために咲く。どう、すてきでしょ。次はBBQね。お友だちを呼んで昼間から飲み食いして過ごしたい。クレイジーソルトを振ったシャトーブリアンを頬張って、シャトーマルゴーのグレートヴィンテージをセブンに売っている強炭酸水で割ったのを流し込むの。モエ・エ・シャンドンでもいいけどあれって気取ってる感じがするからちょっとねえ。やっぱセブンの強炭酸に勝るピリピリ感はないわ。とにかく酔っ払って憂さ晴らしがしたいのよ。もうねえうんざり、美しいだけで何の楽しみもないこの城の庭に嫌気がさしてる。庭だけじゃないわ、わたしの身の回りに溢れかえっている美しいとしか言いようのない何もかもが嫌なのよ。だってこういうのってお金で買えるでしょ。そんなのってダメでしょ。ダメ、ダメ、ダーメダメよでSOSよ。幸せをお金で買うって最低、ロケットマンのホリエモンじゃないんだから。ミサイルマンのオボッチャマン君じゃないんだから。赤ネクタイで赤ら顔の不動産屋じゃないんだから。ましてね、B型夫人に翻弄されっぱなしのプライムミニスターっていったい・・・どうなったのかしら昭恵ちゃんの不始末。結局のところマスコミも他の政治家連中も各々ご自分の夫人に怯えているもんだから、一応騒いでみたものの、わが身に襲いかかるやもしれないブーメランに恐れをなして、フェミニスト的立場をとって体良く収束させたってことなのかしら。

ストップストップ!せっかく政治情勢がいい感じて進んでんですからその辺はやんわりと。

あらそう、まあいいわ。ああでも言いたい言いたい、ほらあの人よあの人、ドバイをヘリコプターで飛んでる美容整形のお医者さん。奥さんのことはファンだし、まあ幸せそうだからいいんだけどね。我慢できないのが綾戸智恵、じゃなかった上戸彩の彼氏よ。お金をばら撒けばばら撒くほど人相が悪くなってゆくじゃない。ちっとも楽しそうじゃないのよねえ。美しくて教養溢れるわたしに言い寄ってくる男たちもそんな人ばっかだったから嫌いなの。あのガストンなんかそれに加えて下品で乱暴で。あっ、あなたは違ったわよ。美しさと正反対の世界を知っているあなたに、わたしは真実の美しさを見たのよ。ふふ、わたしのこの知的で素敵な美的センス、あなたにとってはとてもラッキーだったでしょ。


ええ、心から感謝しています、外見も内面も完璧なる美の化身である姫君様。

だったらお願いね、とびきり美しい、真に美しい、感動と悦楽の、後藤さんちのオープンガーデンのようなお庭。
そうそう、横浜にあるグレースランドに依頼したらいいわ。お友達のデビ夫人の情報なんだけど、あそこにはあなたと同じような Beast がいてね、見た目の美しさに飽き飽きしている人たちに本当の美しい庭を提供しているってもっぱらの噂なんだって。なんでもね、その庭で過ごすとたくさん奇跡が起こるんですってよ。さよならと書いた手紙をテーブルの上に置いて、次の北国行きで実家に帰ろうとしていた奥さんがバスを待つ間に涙を拭いて戻ってきたり(あれれ、確かこのくだりは数日前にも書いたような。まあいっか)、ダンスはうまく踊れないはずの旦那様が華麗なステップで黒猫のタンゴを踊り出したり、もっとすごいのはね、翼の折れた天使が白い蝶のサンバに合わせて羽ばたいたんですって。それって奇跡よねえ。だからそんな庭があったらきっと神学上の難問だって解けるでしょうし、あらゆる病気も治るでしょうし、ダイエット効果も美容効果も吊り橋効果もバンドワゴン効果も、ローゼンタール効果やロミオとジュリエット効果だって期待できるわ。そういうことってあると思うのよね、わたし。

う~んまさしく奇跡。姫君、お教えいただき感謝します。どうか今後ともこの Beast をお見限りになりませぬよう、切にお願いいたします。

それはあなたの働き次第ね。わたしはデキる男が好きなの。見た目じゃなくてね、わたしに途切れることなく本当の幸せを運んできてくれる男が。美味しい・楽しい・美くしい、本物の幸せを。

はい、かしこまりました。

あ、それともうひとつ、おっきいシエスタベンチもお願いね。シルクで織ったオーガンジーの天蓋付きで、黄金で鋳造した猫足のやつ。とにかく疲れてんのよねわたし。ここに来てからというもの、なんだかよくわからない地方の貧乏貴族たちからの陳情も多いし、お義理の晩餐会は立て続くし、ああ、いつだったか紀州のドン・ファンから犬の告別式に招待されたこともあったのよ。信じらんないっしょ、もう大変ったらありゃしない。そういえばあの事件、犯人は一体誰なの?家政婦なのか、若妻なのか、はたまた前妻さんか。人の噂も七十五日って言うけど、わたしは気になって気になって。ホームズかコロンボか杉下右京に依頼したらいいと思うんだけど。まあいいわ、そんなことまで考える余裕ないくらいわたし疲れてるから、せめて庭でね、の~んびりとNHKの昼のいこいを聞きながら昼寝がしたいのよ。いいのよねえあれ、のどかで。ああもういやだいやだこんな生活。だからマジお願いね、グレースランドの庭。わたしの可愛い Beast ちゃん。

ははあああーーー。

世の習いとして、美女と野獣の物語は、美しき猛獣と従順なる馬車馬の物語へと展開してゆくのでありました、とさ。めでたしめでたし。



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追伸

おろそらくはA型であろう Beast に幸あれ。心やさしき正直者にこそ、生真面目にして真摯なる紳士にこそ祝福あれと、心より、心より。
・・・ああ、Beauty and the Beast 。





 
というわけで、今日は後藤さんちへ。昨日の嵐に磨き上げられた魅惑的なバラの世界を楽しんでまいります。