ねえ、わたしたち終わっちゃったのかなあ。あなたいつか言ってたじゃない「ドーナツの穴を残して完食してごらん」って、ソモサンセッパみたいなこと。

そんなこと言ったっけ。

ずっとそれが頭にあってね、わたしは穴を大切にして食べていた。あなたもそうだったでしょ、その穴に私たちの重大な何かがあるんだって思っていたから。

なるほど。で、ついに食べ終わったら大切な穴もなくなっていた。

そう、そんな気がして。

大切に育てていた花が綺麗に咲いて、咲き終えて枯れた、それで落ち込むかい?

違うのよ、花は花、穴は穴。もうあの穴は存在しないのよ。ありもしない理想の関係を大事に大事にしていたってことなのかしら。多分そう、幻想を信じて、食べ尽くしたら永遠のゼロ。愚かな日々だったってこと。何やってたのかしらわたしたち、バッカみたい。

チーズはどこへ消えた、ってことだと思うけど。読んだ?あれ。

違う違う、チーズじゃなくて穴。トムとジェリーに出てくるチーズに空いている穴じゃない、ドーナツの穴。甘くて香ばしい輪っかの中心で、何もないのにすごい存在感を発揮しているブラックホールみたいなあれのこと。
これで終わったのね、わたしたち。


おいおいどうした、ただ単に買い置きを食べ終わっただけだと思うんだけど、違うのかな。駅ビルにミスタードーナツが入っているから帰りに買ってくるよ。いいことあるぞってCMでやってるじゃん。

やったー!わたしはエンゼルクリームをお願いね。知ってるわよね、私の好物。

え、あれって、あのアンパンみたいなやつって穴がないよね。

わかってないわね、あの穴なしドーナツは世界が逆転していて、ドーナツの周りが穴なのよ。だから食べ尽くしても穴は消えない、わたしが消えない限り。

なんだかよくわからないでど、すごい発想。一休さんか!はたまたオノ・ヨーコか!
でもさあ、ドーナツ食べたいくらいで、深刻な顔して大げさな話をするのはよしてくれないだろうか。


ごめんなさい、すっごく食べたくなったもんだから、つい。あ、ついでにマグワァンプも買ってきてちょうだいな、花たちにもおやつをあげないとね。

はいはい。



花をドーナツに見立てれば、
穴の部分に蜜がある。

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虫と同じくそれを知るがゆえに、ヒトは
ドーナツの穴にロマンを感じるのでしょう。

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円の中心が空洞ということは、
色即是空空即是色。

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世界の中心で愛を叫びたくなるのも、花を愛で、
蜜の在処を知っているからなのであります。

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ちなみにぼくはオーソドックスに、
ハニーディップとポン・デ・リングが好きです。



「ドーナツの穴だけ残して食べる方法」は古くからの哲学的命題であり、各分野の学者が大真面目に研究をしているとのこと。

数学派ーーー非ユークリッド幾何学的には可能
化学派ーーー穴に空気とは違う気体を詰めれば?
統計派ーーー100万回食べれば1回くらいは残っている可能性がある

学者とは暇を知らない幸福なる種族ですなあ。貧乏暇なしの庭屋の見解は以下の通りです。
庭を整えることがドーナツで、そこで楽しむことが穴。穴がなければドーナツではないわけで、穴だけあってもドーナツではないわけです。でも庭がなくなっても、愛する人たちと過ごした幸せな記憶は永遠に残り受け継がれてゆくので、穴を残してドーナツを食べつくすことは可能なのであります。