二十年くらい前に、千葉市の郊外にあるケーキ屋さんの自宅の庭を依頼されたことがありました。打ち合わせは甘い香りが満ちている店の厨房で、ガラス越しにケーキや焼き菓子を買い求める人たちが次々来店していて大忙しです。清潔な白衣を着たエビス様のような表情をしたご主人に、思わず「ケーキ屋さんはいいですね、幸せな人だけがやってくる」と。エビス顔をそのままに返ってきた返事は「そうなんですよ。それがこの仕事の最大の魅力です」というもので、本当にそうなんだなあと、幸せな仕事だなあと。同じ時期に弁護士さんのお宅も設計していて「弁護士という仕事はキツいですよ、辛い状況にある人しかやってきませんから。だからしっかりと気持ちを回復させられる庭が必要なんです」という話を伺ったばかりだったので、その職種によるコントラストの強烈さから、今でもケーキの香り付きで鮮明に記憶している出来事です。



ソメイヨシノの開花宣言に、
おいおいまだ早いでしょとオカメザクラ。
春の勢いに追いまくられて、
ここから矢継ぎ早に咲く花々を見過ごしたらもったいない。

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さてガーデンデザイン というぼくの仕事は?



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思いっきり幸せな人とそうではない人が半々でやって来てくれます。両者の共通点は思考が幸せ方向へとベクトルを向けているということ。幸せな人は、より幸せになることで今ある幸せを強固なものにしようと、何らかの課題を抱えている人は、どうにかしてそれを克服して幸せへと至るために、『庭』に希望の光を探しているのです。



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ですからぼくは常に幸と不幸の間で庭を覆い描いているわけで、幸せな人のエッセンス、知恵や指針や思考方法や生活習慣を取り入れながら仮想庭の線を引いている、ケーキづくりが得意な弁護士のようなスタンスなのかなあと思ったりします。音楽で言うならフォークソングかな、みたいな。



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愛は愛とて何になる。月に一度の贅沢だけどお酒もちょっぴり飲んだわね。この広い野原いっぱい咲く花をひとつ残らずあなたにあげる。夢の中へ夢の中へ行ってみたいと思いませんか。なごり雪は降るときを知り。歩き疲れては夜空と陸とのあいだにもぐり込んで。さよならが言えないでどこまでも歩いたね。季節のない街に生まれ。母がまだ若い頃ぼくの手を引いて。この大空に翼を広げ飛んでいきたいよ。



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この一年、気がつけばあいみょんをよく聴きました。なかなかです。令和のイルカ、と言うか、コロナ禍に咲いた野の花みたいで、ボカロっぽい叫び声が流行る昨今、ほっとできるんだなあ。まともに、普通に、幸せへと向かう、そんな庭を描き続けなければと思えるのです。よかったですよ、フォークソング世代で。