若いご夫婦がベランダガーデニングでしょうか、迷いに迷って花をひとつ選び植木鉢と土を買う、微笑ましい光景です。ただ不慣れなのでしょう植木鉢がとても小さい。育て方を聞きに来てくれるので、日当たり、水はけ、肥料、鉢底石のことなどを説明し、最後に「土の量は最低でも苗のポットの10倍は必要ですからもう少し大きな鉢の方がいいですよ」とアドバイスをします。皆さん「そんなに土がいるとは思いませんでした」と驚き鉢を選び直します。



夏野菜は水分ミネラル豊富。
バクバクと季節の旬を味わって、
いよいよ始まった灼熱を楽しみましょう。

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鉢植えは植物には過酷な環境で、水やりはもちろんのこと、根っこが気兼ねなくスイスイ伸びられるだけの土の量がないと早々に成長が止まってやがて枯れてしまうわけで、その体験にショックを受けて、ガーデニングは苦手と自分にレッテル貼りをしてしまうというのが、とてもよくある残念な現実。すべては最初の土不足が原因だとしたら、と思うと、売り場に立って「土はたっぷり目にして育ててください」とアナウンスしたい気持ちになるのです。



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花鉢の土だけではなく自然界は有り余ることが原則。例えば昆虫は蜜を食べ放題なだけの花の量があるから生きていられるし、鳥も食べ放題な数の昆虫がいるから雛を育てられるし、あらゆる動植物が飢えに怯えず食べたい時に存分に食べられる状況下でのみ伸び伸びと暮らせる、その状態が正常なバランス。それぞれの種族が食べ放題、飲み放題、寝放題、起き放題、遊び放題ができる生息域、ニッチ(隙間・あるまとまった範囲の理想の生態的地位)とはそういう場所で、そのニッチとニッチが影響し合って生態系が維持されているのが自然界の仕組み。故に、もしもあなたが暮らしに何らかの困難を感じているなら、もしかしたら、単純に居場所が適切じゃないのかも知れません。



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地球上で代をつないでいる生命の精鋭たちが、必要十分なエネルギー源なり環境が有り余る中で暮らしていて、それは適切なニッチにいるからである、という前提の上に成り立っているのだ、として、さてヒトはどうでしょう。有り余る食料と、有り余る便利な家電と、有り余る生活に関する快楽システムを手にしているわけです。その状態を維持するために思考し賢明に、懸命に働いている。ところが時たま落とし穴に落ちるが如く、何かの不足に陥り追い詰められることがあるわけで、それは主に心に関わること。孤独感とか・・・。そんな時に庭が役立ちます。いつも有り余りながらバランスを保っている庭世界と同調する、あるいはその世界の自然さに包まれることで自分の不自然さに気づく、それが癒し、ヒーリングなのです。



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巷間言われるヒーリング・ガーデンとは、ヒール(癒し)を必要とする状態、つまりバランスを欠いてしまった者にのみ存在価値を持つものである、と考えると、健全なる大多数の人には関係なさそうに思えますけどさにあらず。咲き誇る草花、そこに集まる昆虫たち、それを狙う野鳥、どの生物にもアクシデントや突如とした環境変化はつきもので、その度に傷つき、疲弊する。すると必ず草のアロマに包まれながら休息し、夜風の感触に安らぎ、朝露とフレッシュな光を浴びることで全身にパワーが漲って傷が癒え、食欲と元気が湧いてくる。



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庭は必要です。庭じゃなくても自然を感じる癒しの時が不可欠なのです。っていうか、そこにたどり着けたら人生は上々なり。コロナが始まって変わったことがあって、それは園芸売り場の主役が元気なガーデニング奥様から高齢者になりました。ベテラン顔で野菜苗を買うお爺さん、マリーゴールドをガゴいっぱいにしてレジに並んでいるチャーミーグリーンなご夫婦、娘さんに付き添われて花選びをしている車椅子のお婆さん。先程、開店と同時に駆け込んできた80半ばの男性が「ワイフが野菜をやってたんで、俺もやってみようと思ってね、お兄ちゃんに任せるから土と苗を選んでよ」と。連れ合いに先立たれた男は青菜に塩、ヘナヘナで立ち上がれなく場合が多いのに、その方はいたって元気で意欲的。ワイフって、お爺さん、仲良しだったんですね。



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いいぞいいぞ、サピエンス。縄文後期から1万5千年もそうやって、植物と交信しながら暮らしてきたんだから、コロナ禍の出口で先祖返りか赤ちゃん返りか、無邪気に畑で汗を流すなんてのは最高の復興ですよ。諸先輩方、そろそろ仕上げの時となりました。いち日いち日が貴重な余生ですので、ここはひとつ、改めて庭に意識を向けてみませんか。まだまだ先であるにしても終わりよければすべてよし。最終問題は「はらたいらさんに全部」ってんで、庭に賭けてみるのもご一興かと。ポツンと一軒家に登場する充実の最終楽章に、いつも平伏し見事なり!若い者に指針を残すは、いくつになっても夏休みを遊び尽くす、元気はつらつなる姿なり。



ワイフがねって、いやァ〜かっこいい爺さんだったなあ。
乗り越え乗り越え乗り越えて、
行ってみたいなあのニッチ。


 
 
朝んなると起きて仕事に出かけ
はした金のために体をこき使うのに
それなのにあの運のいいお日さまときたらなにもしねえで
ただ一日中天国をまわっていやがる

女房と罵りあい ガキにゃあ手を焼き
皺だらけで髪に白いものが混じるまで汗を流してるのに
その間あの運のいいお日さまときたらなにもしねえで
ただ一日中天国の周りをまわっていやがる

天の神様よ あんたにおいらの苦しみが分からねえだろ
おいらの目の涙があふれているのが
おいらを光輝く希望の雲にのせてくれよ
楽園につれてってくれよ
そこの川を見せてくれよ、川を渡って
おいらの苦しみをなにもかも洗い流して
あの運のいいお日さまみてえに
なにもしねえようになりてえんだ
ただ一日中天国をまわっているだけのお日さまに