円海山の周辺を歩いていると何度か目にする看板です。最初は「ほんとにここにマムシがいるのかなあ」といぶかしんだものでした。なぜならマムシは、ヘビの中でもかなり濃い自然が無ければ生息しないからです。ですからこの看板は“自然保護区”であることの“演出”なのではないかと疑ったわけです。
魚沼の街場では、裏庭や畑に普通にヘビが出ます。たいがいはシマヘビ、たまに大きなアオダイショウにドキとさせられます。でもマムシはかなり山奥に行かない限りお目にかかれません。中学生くらいになって遊びの行動範囲が広まって山奥にまで入るようになると、大人から「赤いのには近付くな」と教えられます。赤い草はウルシ、絶対に触ってはいけません。そして赤いヘビがマムシです。
夏の暑い日に林道を歩いていると道の木陰にマムシが這い出て涼んでいることがあります。近付くと鎌首を持ち上げて攻撃態勢で向かってきます。なれている子は木の枝で三角の頭を押さえつけて捕獲し、家に持って帰ります。ホワイトリカーに漬け込んで“マムシ酒”を造るのです。このマムシ酒、飲用ではなくて打ち身の薬、シップ薬です。今思い出してもプ~ンと香ってくるほど強烈な匂いで、その効き目は・・・?匂いの強烈さで痛みを忘れてしまう、たぶんそういうことだったんだと思います。懐かしい、いなかの記憶です。
高校生になって越後駒ヶ岳に毎週登っていたことがありまして、下山ルートの終点にあるランプの湯(今でも電気が来ていません)“駒の湯”あたりでマムシを捕まえて、大湯温泉の土産物屋に持って行ったら思いがけず1,000円で買ってくれました。山で捕まえた獲物がお金になったことで、なにか山男として認められたような、一丁前になった感じがしてうれしかったのを覚えています。
で、円海山のマムシですが、こんな看板もありました。
今までマムシには遭遇していません。どうも私の感覚ではここにマムシがいるような感じがしないのです。もっと深くて、人を寄せつけないような分厚い自然があって、その証明として時々現れる、人と対当に戦える森の番人がマムシなのです。でもこういう看板もあるし、昔は確実にいたでしょうから、いつかこの森で出会ってみたいヘビです。
マムシの棲息に付いては?ですが、他のヘビはけっこういます。何度か見かけて、2回は撮影に成功しています。
まずはシマヘビです。
そして次はヤマカガシです。
ヘビを好きな人ってあんまりいませんよね。ヘビは濃い自然にしか住まない。ということは、ヘビに対する恐怖は自然に対する恐怖なのです。今は人が自然を保護するような力関係ですけど、もともとは人は自然の力におびえながらそれと戦って、自然に打ち勝って、切り開いて生活していました。その時人が立ち向かった敵、恐ろしい自然の象徴がヘビだったのでしょう。だから人のDNAに“ヘビは恐ろしい”という感覚がインプットされている、そういうことだと思います。ヘビは豊かな自然の象徴、ということです。
リスが増え過ぎたりビニールゴミや空き缶が目に付いたり、ふもとでは粗大ゴミの不法投棄があったりで、自然を保護し、さらに濃く育てて行くことは並大抵ではありませんが、できることならほんとにマムシに注意しなければならないような森になってほしいものです。
そんなことを考えながら山から降りてくる途中で、ウツギに群がって身をついばむ野鳥を発見しました。
名前は知りませんけど、かわいいくて、しばらく眺めていました。そしてさらに歩いて住宅地まで来たときに見えた風景がこれ。
奥に見えるクレーンは、港南台の清掃局が設備が古くてダイオキシンが発生するということで廃止になって、煙突を解体しているのです。そして手前の赤茶けた数本の木、これは松食い虫にやられて立ち枯れた松です。松食い虫の被害もここ数年深刻で、この近辺だけで2~30本が枯れてしまいました。これもまた自然が薄いからです。自然に厚みがあってバランスを維持する力が強ければ松食い虫で風景が変わってしまうことなどありえません。煙突を解体して、植林して、人もがんばっているのですが、一度壊してしまった自然を回復させることは容易ではないのです。開発で傷んだり、保護を始めても回復途中でまだ弱いときには、リスごときで、数センチの昆虫一匹で次々と木が枯れてしまう。そういうことが無いところまで保護することと育てることをやり続けなければなりません。時間がかかります。たぶん私たちの代では完了しないでしょうし、かりにそう出来たとしても、油断したらすぐにまた壊れてしまいます。であれば、今大事なのは大人が環境問題と向き合って、きちっと努力すること。それを子どもたちに見せて、参加させて、このことの重要性、「自然が壊れると人も壊れるんだよ」といったことをしっかりと教えることです。
そんな意識を持って、休日に子どもたちを連れて円海山散歩してみて下さい。港南台スタートで、金沢動物園まで歩くコースや、体力があれば3時間、天園の峠の茶屋を通って北鎌倉の建長寺まで行くのも楽しいでしょう。(ガイドが必要ならいつでもよろこんでお供します)