ガーデニングエリア、ウッドデッキ、バーベキューテラス、立水栓、ライティング、目隠しについてと解説してきました。これらは目に見える構成物です。今日は目に見えない設計の要素についてやりましょう。「目に見えない要素?」いろいろあるんです。音、空気、香り、時間・・・。今回とても意識したのが『風』です。

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当ブログのカテゴリに『風の町散歩』というのがありますけど、うちの店がある港南台(港南区)、栄区、磯子区、そして鎌倉・逗子・葉山の湘南エリアは一年中イイ風が吹く場所です。フリーマントルドクター(詳しくは『風の町散歩』をお読み下さい)のような風。

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こちらの西森さんちは栄区で、立地の条件もあってその贅沢な風を存分に楽しめます。ですから設計している間中、図面用紙の縮尺と同じ50分の1に縮小した私はその風を感じながら作業していたのです。

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朝ここに座ったら左側からシャキッと冷えた風が来る。BBQの炭の香りは道路ぞいに流れていく。夏の夜の全身をクールダウンしてくれる風。冬の日だまりで黄色いパンジーがゆれてキラキラと存在を主張する。

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庭に出る機会が増えると風を意識するようになります。風だけじゃなくて、鳥の声や土のにおいや湿度や気温も。
そしてそのことが人にもたらす恩恵は、これは数値化できないことですけどかなり大きい。日々それを体感したら、もうそれなしではいられないほどのものなのです。

本来は『風を感じる』といったことが、生活する上でごく当たり前のことだったわけでして、たった数十年前までは。例えば雪国の家は夏涼しいようにつくってあります。私の実家もエアコンは必要なしで、縁側から入る風が家中を快適に冷やしてくれます(冬は冷凍庫ですけど)。それがどの家も高機密高断熱になって、新築の家におじゃますると、どこも一年中、一流ホテルのように心地よく空調が効いています。
今や人が暮らしの中で風を感じる場所は庭だけ。『風を感じる暮らし』の大切さを考える時に思い出すのは、今は少なくなりましたが東京の中央線沿線に点在していたジャズ喫茶。そこに必ず置いてあったヤニけた観葉植物です。カポックやアオバドラセナやボク(支柱)から垂れ下がったモンステラ。長く日に当たることも風を受けることも無く静かに生息しています。生気をなくして、かろうじて生きている感じで、ある日それが香港フラワーに替わっても誰も気が付かないような。昭和の情緒といえばそうなんですけど、植物の状態的には最悪です。やはり植物は屋外で、自然界からの信号や刺激や恩恵の中で育つのが本来の姿なわけでして、これって人間も同じこと。快適な空調の箱に閉じこもっていたら何かしら人としてのバランスが崩れてしまうと思います。
『風を感じる暮らし』、家のつくりが快適になった分、庭の重要性が増したということです。