昨日ご覧いただいたサインウォールの前まで行くと、地面が石張りになっていて、その石が階段へと続いています。
くどいようですが、これが繋ぐということです。



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素材によって誘導する、もの言わぬ石に案内をさせるのですからおもしろいものです。
ピンクと白が混ざった乱張り石が、無言で、さっと階段側を指し示して、階段の上からは、これまた無言で、サインウォールと同じ仕上げの壁が手招きをしています。

ビフォーではこういうストーリーがなかったために、その先に玄関があるのかお勝手につながっているのかわからない、うかつに入ると怪しまれるかもしれない、という雰囲気でした。



ビフォー5



初めて訪れる人に、しょっぱなから不安感を与えてはいけません。スムースに意識を玄関へと誘導し、途中で心地のいいインパクトを与えて、心の鎧を脱いでもらって、無言の手招きで玄関まで来た人とは、ドアを開けたら必ず笑顔でのご対面となります。
ストーリーで、素材で、繋いで、誘導して、さらに両手を広げて迎え入れるような玄関アプローチなら、幸運も舞い込んでくるはずです。






ジョン・レノンへの憧れから始まって、30年以上を経て、世の中的にはまだまだ珍しいいっぱしの主夫になりました。

もしこのことがなかったら、ぼくは今のような設計はできていないし、まったく違う仕事に就いていた可能性が高い。トンネル掘りの土木技師か(トンネルの測量は最高におもしろいのです)ゼネコンの現場監督として世界中に高層ビルを建てていたかもしれません。自分のそんな未来像をイメージしていた時期もありました。


でもよかったですよそうならなくて。この仕事の方がはるかに楽しく、天職と思えるほど自分に合っていると感じているからです。ほんとよかった、女男で、ジョンに憧れて、思う存分主夫をやらせてくれる妻と巡り会えて。

主夫業をしていると「家族」のことを考えます。奥樣方にとっては当たり前のことですよね。料理でも掃除でも、家族がいるから楽しいのです。家や庭を、気持ちよく暮らせるように美しく快適に整えることも、家族がいるからこそです。

もしぼくが一人暮らしだったら、独身時代にそうだったので生活空間を美しく整えることはすると思うのですが、それと家事とはまったく本質が違います。「自分の暮らしを整える」のと「家族の暮らしを整える」のとでは、そこにあるよろこびの度合いが違う、いや度合いじゃなくて、よろこびがあるかないか、という違いです。

何日間か家にぼくひとりということがあります。開放感もあり「さあてと、思いっきり好きなことしよう!」とワクワクします。ただし、それは最初のいち日くらいで、あとは・・・。

ひとりってのはつまらないものです。いるとうるさい妻も、反抗期でお手上げ状態の子どもも、いなくなると張り合いが無くなります。料理なんて一切する気になれず、美味いものを食べたいという欲求もゼロになり、腹が減ったらプレーンの食パンを牛乳で流し込むみたいなことになります。


家族と暮らすことの幸福感を感じながら、それに感謝して、その幸福感を守り育ててゆくのが家事なんですよね。


主夫であるぼくの中にはそういう価値観ができあがっているので、家族を思いながら、暮らしを日々整えることによろこびを感じている世の奥樣方と近い世界にいます。そして庭の主人はたいがい、ご主人ではなく奥様なので、庭をイメージするときには主婦と主夫の世界観がうまいことリンクするのです。

日経新聞は読んだことないけど、サンケイリビングは隅々まで読むという、そういう感覚じゃないと価値あるファミリーガーデンは生み出せないんじゃないかなあ。


家族と過ごす時間に幸福感を感じるかどうか、人生においてそのことにどれくらいの価値を感じているかというアンケートで、先進17カ国中で日本は最下位だったそうです。
ちょっと意外でしたが、言われてみるとそうかもしれません。諸外国に比べて日本人の家族意識は、確かに低いような気もします。将来の夢は?と問われて「家族仲良く幸せに暮らすことです」という回答は少なそうですからね。
戦後の復興が加速しすぎたということなのか、世界に羽ばたく仕事をするとか、◯◯で社会の幸福に寄与する、そういう感覚は育ったものの、一番身近な世界、家族の幸福感を見落としてしまっているのかもしれません。
何らかの分野で大成功している人、評価を得ている人が、一家団欒の時間を持っていなかったり、家庭不和、仮面夫婦だったりしますからね。仕事に夢中なのはけっこうですが、奥さんの顔に笑い皺がないようではその人の人生ってどうなのかなあ。
もしかしたらその社会的成功も、本質的にはただの商売上手とかプレゼンテーションが突出して上手いだけとか、そうなのかもしれないなあと思ったりもするのです。なぜなら、家庭円満を実現できない人に、社会の幸福に寄与する仕事などできっこないと、ぼくの主夫感覚ではそう思うからです。

将来の夢は?「はい、家族みんなが幸せに暮らすことです」、そう答える子どもが増えるといいなあ。
前提にそれがあれば、たくさんの家族に幸福感をもたらすすばらしい料理人にもなれるし、社会の幸福を創造するための事業を展開する会社の経営者にもなれるし、真に政治家らしい政治家が生まれるかもしれません。
そう思うと、子どもに家事をやらせた方がいいですよね、習慣として。
食べたら洗う、脱いだらたたむ、起きたら掃除する、自分のシーツは自分で取り替える・・・。
ご主人方は、主夫とまではいかなくても、たまには家事を手伝ってみてください。そこにたくさんの気づきがあると思います。

あぁ主夫でよかった!というお話しでした。


尾崎さんちの奥様がお持ちの「穏やかでにこやかな躍動感」を掘り下げる、という予定が「イラカン」→「アニキ的リーダー」→「イクメン」→「主夫」とどこまでも話がそれていって、戻って来れなくなっていました。
明日から軌道修正して、今回のシリーズの裏テーマ「穏やかでにこやかな躍動感」を掘り下げます。