ひと月ほど前の出来事です。
旭区のお店「レノンの庭」は小さな小屋の外にサンプルガーデンがあり、ぼくはその小屋で設計作業しつつ、日に何度か庭に出て掃除をしたり、椅子に座ってコーヒーを飲んだりして気分転換をします。
ある時庭に出ていると、ふとリンゴジュースの香りがしました。ほんの一瞬だけ鼻先に感じました。
周囲を見回しても誰もいない。いつも庭に遊びにくる子どもがジュースをこぼしたのかなあと思いました。
翌日またいい香りが、今度は前日よりも甘く、強く香っていました。タルッとした桃のネクターのような香りです。
香りの出所が気になりつつも、そよ風に飛ばされて、すぐに香らなくなってしまいました。
次の日、庭全体に果実酒をぶちまけたように甘酸っぱい香りが。
「これはただ事ではない、何かが起こっている」と思い、庭中を隅々まで歩いてその発生源を探りました。
ありました。
これです。
ヤシの木に咲いた花が結実して房状に実をつけていて、それがボトボトと落下して木の下のアイビーの茂みの中に溜まり、発酵していました。
写真を撮ろうと盛大にたかっていたコバエを払うと、強烈な香りが目にしみるようでした。
強烈ですけど、何とも魅惑的な香りです。
ヤシの子孫繁栄戦略。一カ所に集中的に実を落として、発酵させて香りを出し、動物よ呼ぶ。その実を食べた動物が種を他の場所へと運んでくれるわけです。
そう言えば数日前、庭に転がっていた実を散歩に来た犬がかじっていました。まあ毒ではないだろうと思い放っておきました。
小動物に向けたその戦略は、昆虫たちも惹き付けます。実に群がるコバエだけじゃなく、香りに誘われてたくさんの昆虫が集まってきました。
庭全体が虫の宴会場であるかのように、花の蜜を吸い、飛び交っています。
もう完全に酔っぱらってる感じで、カメラを近づけてもまったく逃げることなく宴を楽しんでいます。
翌日、もう宴会はお開きとなり蝶も蜂もいません。香りもなくなっていました。
人間社会と全く別の、ほとんどの人が気づかない世界で、植物主催の宴会が開かれていた。何だか夢のひと時に立ち会えた気がします。
もう何年も、このヤシの葉が揺れるのを眺めながら仕事をしています。
いいヤツです。
自宅の庭のジューンベリーと同じく、いつもぼくに素敵なメッセージをくれます。
こういう木が庭にあったら、人生はより楽しく、豊かなものになるんじゃないかなあ。
あなたも、木を感じる、庭を感じるということを、日々の楽しみの一つとしてみてはいかがでしょうか。
ヤシの木の大宴会、まるで絵本の中にいるようないち日でした。
ある時庭に出ていると、ふとリンゴジュースの香りがしました。ほんの一瞬だけ鼻先に感じました。
周囲を見回しても誰もいない。いつも庭に遊びにくる子どもがジュースをこぼしたのかなあと思いました。
香りの出所が気になりつつも、そよ風に飛ばされて、すぐに香らなくなってしまいました。
「これはただ事ではない、何かが起こっている」と思い、庭中を隅々まで歩いてその発生源を探りました。
これです。
写真を撮ろうと盛大にたかっていたコバエを払うと、強烈な香りが目にしみるようでした。
強烈ですけど、何とも魅惑的な香りです。
そう言えば数日前、庭に転がっていた実を散歩に来た犬がかじっていました。まあ毒ではないだろうと思い放っておきました。
いいヤツです。
自宅の庭のジューンベリーと同じく、いつもぼくに素敵なメッセージをくれます。
こういう木が庭にあったら、人生はより楽しく、豊かなものになるんじゃないかなあ。
ヤシの木の大宴会、まるで絵本の中にいるようないち日でした。