選挙特番の放送開始10秒で、いつも決まって「やっぱりね」と「なんてこった」が混在する衝撃波に打ちのめされるこの感じ。一発逆転の場面で勢い込んで打席に立ったものの三球三振に終わって、とぼとぼとベンチに戻る選手の後ろ姿を見るようながっかり感と、そもそも何で野球なんか見てんだよと自分に突っ込む感じと。
ぼくごときが政治について云々するつもりもないわけですが、でも今回は、ある感慨があったので書き留めておこうと思います。 


短かった夏、
散歩道のハスがとても元気で、
ずいぶんと楽しませていただきました。

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お釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっとも見ていらっしゃいましたが、やがてカンダタが血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうなお顔をなさりながら、またぶらぶらとお歩きになり始めました。自分ばかりが地獄から抜け出そうとするカンダタの無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて元の地獄へ落ちてしまったのが、お釈迦様のお目から見ると、浅ましく思い召されたのでございましょう。



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10秒を過ぎて即座にテレビを消し、その後の10秒間で浮かんだのが芥川龍之介の「蜘蛛の糸」でした。 そして次には「羅生門」の修羅の世界が三船敏郎主演で駆け巡り、庭に出て腰掛けたら今度は「杜子春」が、いきなり記憶の棚の奥の方から飛び出してきて、もはや居並ぶ特殊公務員たちの泣き笑いなど雨音に溶けて消えてゆきました。そんなことよりも(ちゃんと投票には行きましたので、こんな言い方もお許しください)、それどころではなく、思考はわが人生の局面にシフトして「今日を、明日を、いかに過ごすべきか」となった次第です。



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「もしもお前が黙っていたなら・・・」と鉄冠子は急に厳か顔になって、じっと杜子春を見つめました。
「もしもお前が黙っていたなら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。お前はもう仙人になりたいという望みも持っていまい。大金持ちになることは、もとより愛想がつきた筈だ。ではお前はこれから後、何になったら良いと思うか」
「何になっても、人間らしい、正直な暮らしをするつもりです」
杜子春の声には、今までにない晴れ晴れとした調子がこもっていました。
「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遭わないから」
 鉄冠子はこう言う内に、もう歩き出していましたが、急にまた足を止めて杜子春の方を振り返ると、「おお、幸いにして今思い出したが、おれは泰山の南の麓に一軒の家を持っている。その家を庭ごとお前にやるから早速行って住まうが好い。今頃は丁度家の周りに、桃の花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快げに付け加えました。



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続いて、「蜘蛛の糸」のエンディングです。

しかし極楽の蓮池は、少しもそんなことには頓着致しません。その玉のような白い花は、お釈迦様のお足元のまわりに、ゆらゆら蕚(うてな)を動かして、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽も、もう午に近くになったのでございましょう。



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台風は午近くには行ってしまって(現在、静岡県上空)、その後は何事もなかったように、静かな日常が再開されることでございましょう。
では、今日も、脅されても打たれても頑なに沈黙を通した杜子春の心境で、極楽浄土の庭を思い描きます。最後の最後に、愛情を伝える一言を発する、その時までは。