ぼくは庭を設計するときに、まず最初に円を描きます。

 とある建築家のご自宅を拝見する機会があり、その家の螺旋階段に懐かしいような刺激を受けました。螺旋階段は限られたスペースの中に間取りをしていく場合に、小スペースで階の移動ができる合理的な形状です。それに加えて、住人が日に何度かそこを上り下りする時に起こる精神的開放のようなものをもたらします。四角い生活空間の中にあって、人をトルネードさせる導線が持つ心理的意味を知る設計者は、末長く健康な気落ちでお暮らしくださいという、願いのような、祈りのような気持ちを込めて曲線を引く。そんな意図など知るよしもなく、住人は健やかな人生へとアフォードされてゆくのです。
 「よかったらどうぞ」と促され、円筒形のスペースを回転しながら2階へ進み、振り返ってまた1階へ。
実際に歩くと、やはりそうで、固まりがちな頭がシャッフルされる心地よさを味わいました。というわけで、今日は、庭における丸、円形のことを書き留めておこうと思った次第です。



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 ぼくは庭を設計するときに、まず最初に円を描きます。
 敷地のどこかに中心点を置き、そこから適切な半径を決めて丸を配置するのです。中心点の位置と半径は、その円が持つ意味によります。どこに円形を配置するかはその庭の中心軸を決めることで、半径の大きさはその円形の上空(円筒形)の意味、その空間の使い道、つまりは庭の主題をはっきりさせるために導き出す数値なのです。



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 大概は過ごす場所、人が集う場所としての円形です。テーブルを囲んで数人が腰掛ける場合、半径は1.5メートル、つまり直径3メートルが必要で、それが入らない場合には図面上の円を敷地からはみ出させて、座り方を工夫します。



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 デザインとしてその円の線を残すこともあれば、消してしまうこともあります。ウッドデッキなど視覚的に円形が残っていない場合であっても、そこには目に見えない丸い世界が隠されている、これがいつの間にかぼくの設計スタイルになりました。



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 では、なぜ四角ではなく円なのか。それは逆に言えば、庭以外の生活空間が四角いから。
ぼくらは四角い土地に四角い家を建て、四角い部屋で暮らしています。
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箱状の形は建築上便利な形状でありつつ、その中にいる人に無言のお作法を覆い被せる支配力を持っています。その支配を心地よく感じる、きちっと暮らす感覚を良きことと認識する、四角い部屋を丸く掃くのではなく壁と平行に掃いてゆく暮らし方に賛成票を投じる人が多数派となり、住まいは四角くなったのだと、円形を考えながらのクロスカウンター的に、このような理屈っぽい推測に思い至り、その理屈っぽさが対極にある円形の意味と意義を鮮明にしてゆくこととなった次第。
 そもそも人の住居は四角ではなく丸から発祥したのですよ、ということから、もう少し理屈を続けます。



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 イヌイットの家(イグルー)、ネイティブ・アメリカンの家(ティピー)、モンゴル遊牧民の家(ゲル)など、大きな自然に間借りするような感覚での住居の形は古来より円形でした。日本でも縄文時代の竪穴式住居は円形で、さらには
前方後円墳、遺跡から出土する土器も円形。自然界では卵は丸いし、カブトムシの蛹室、貝類、花、鳥の巣など、円形だらけ。



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 庭に円を納めると丸く収まる。これは理屈ではなく、円を入れ込むといい感じの空間が出来上がることを30年ほど前に肌感覚で察知して、いつしか繰り返し使うようになりました。そうやって出来上がった庭で暮らすご家族が、夫婦円満で、当然家庭も円満で、賢く物事を丸く収める能力に長けていたことも、この手法、円を描くことから始めるやり方を繰り返している理由になっています。




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 家庭も仕事も丸く丸く。Tao(道教思想)では、円という図形を社会と自分、自然と自分との関係性の象徴と捉えていて、対象と対峙するよりも解け合うような、混ざり合ってひとつの渦になるような考え方を大切にしています。対立ではなく、上下でもなく、共鳴し合うという概念。



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 四角では角が立つし、三角は不自然に過ぎるし、不定形だと落ち着かないし。そう考えると円形、丸は人が外界(自然)と共鳴しやすい形なのです。



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 庭だけではなく、生活に円を意識してみてください。生活・・・生きて活動する舞台が円形で、常に半径5メートル程度がテリトリーだとして、その中で生き生きとした自分らしさを発揮し、他の円が重なった時には対峙ではなく、溶け込んで回転するような、そんなイメージで。夫婦も友人も初対面の方も、互いのテリトリーがダブったら、瞬時にして手を取りジルバを踊り出すような感じを。



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 丸は調和、四角は規律、三角は躍動。図形はその世界に意味をもたらすパワーを持っています。中でも丸から生み出される波動のようなものは家族円満に重要です。何せ、ぼくらは円形軌道をめぐる球体の上で生息しているのですから。その回転が時間であり、大気圏というシャボン玉のように薄いサークルの中で、限られた回転数を使って、考え、動き、食べ、眠り、目覚め、愛し合い、出会い、別れ、泣き笑いを繰り返しているのですから。
 庭ですよ庭。まあるい庭が円満な暮らしへと導いてくれます。